【再開店後の記事はこちら】
東京のフレンチ実力店!伝説のオヤジシェフ4人の復活(2017年)
2007年9月に再訪。マダムの暖かなサービスと気持ちがぐぐっと入ったシェフの料理は抜群に旨い。安易に妥協や変化を嫌う姿勢が非常に心地よい。
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今にも泣き出しそうな空の下、僕はそのレストランを目指していた。六本木から溜池方面へ坂を下る。三河台公園の手前を左に折れ下った分だけ坂を登る。寒さで息も白くなる。
急ぎ足で向かっている「ポワン・ドゥ・デパー」は阿佐ヶ谷からこの六本木に平成12年7月に移転してもう随分経つ。看板には店名の下にSonobe-Restaurantとシェフの名を記したサインがある。白地にゆるぎない自信を感じるその看板は、レストランそのものを素直に表現しているように思えてならない。
六本木といってもここは猥雑なエリアとはかろうじて切り離されたギリギリのところ。防衛庁跡地が開発され、まもなくこの辺一体は大きく変わるだろう。それは六本木ヒルズを越える街を目指していると聞くが、今は賑やかさとはかけ離れた、妙な静けさに包まれている。
時間に遅れ、焦っていたその日の僕は何も考えずに、そう、目指すレストランの近くの様子を見たり、ゆっくりと階段を下りるアプローチを楽しむとか、食べること以外の楽しみがまったくできずにいた。だからもっと早くオフィスを出ればよかったのに!
レストランへのアプローチはとても重要だ。看板を見つけて玄関のドアを開けるまで、そして開けてから席に座るまでのごくわずかな短い時間。その時間にはっとしたり、ワクワクしたり、ほっとしたり。
ポワン・ドゥ・デパーへの階段は短いがワクワクさせるものだった。ドアの正面にはシャンパーニュ協会日本支部のポスターが張ってあり、すでに気分はシャンパーニュ。
フロアには笑顔の素敵なマダムがいた。気品があって、キビキビしていて。うわさには聞いていたが、そのとおりのやさしい印象。
我侭を言わせてもらってメニュー選びの前に、すぐにシャンパーニュをボトルで。ペリエ・ジュエの泡立ちは満遍なくリーデルのグラスを昇り立つ。さり気なくオンリストされたKrugの誘惑を断ち切るのは難しかったが、飲んでしまえばジュエも素晴らしい味わいだ。
乾杯のあとすぐにパンとバター、そして2種類のリエットが運ばれてくる。このようなサービスは実は非常にうれしい。
たわいもない話で盛り上がる僕達の前に料理は次々と運ばれてくる。どの皿もシェフ一人だけの手だけで作られ、盛られ、飾られたもの。後で気がついたのだが、調理場にはシェフ一人しかいない。そしてそれを運ぶのもマダム一人。