西麻布の住宅街にひっそりと潜むこの白亜の建造物はもうすっかり東京を代表するレストランとして有名になったと言っていい。私は開店当初の頃、偶然にも前の道を歩いているときにこの建物が目に入った。エントランスの前でこれは一体何なのだろう?と立ちすくんでいるとそれを見つけたサービス精神旺盛なスタッフが私を丁寧に中に案内してくれた。
エントランス右手のバーコーナーは英国のジョージアン王朝の雰囲気に限りなく近く、メインダイニングに降りる螺旋階段には目眩を覚えたほどだ。ほのかに薄暗いダイニングテーブルから見える光景は、数々の芸術品に囲まれた重厚な雰囲気とともに、ここが日本であることをしばし忘れさせてくれる。
それからしばらくして友人とディナーに出かけた。ちょっとお洒落して出かけるには絶好のロケーション。決して六本木から歩いて行ってはいけない。ちゃんとMKタクシーで乗り付けよう。MKのドライバーが白亜の館の前に着いてドアを開けてくれたところから、極めて非日常的な時間のスタートボタンが押される。そう、こんな時は時計なども持たないほうがいい。
最初に案内される右手のバーでゆっくりシャンパンでも味わおう。暑さ感じるこの季節ならまずは気持の良い一口になるだろう。その後案内されるBGMもない薄暗い空間には驚きと期待を隠せないが、しばらくすると妙に心地よい気分になってくる。天井の高い英国王朝的空間はここでしか味わえないものといっていいだろう。
誕生日や結婚記念日といったハレの日にお洒落して出かけるにふさわしいレストランとなると、そう多くはないことに気付く。少々費用がかかっても日常生活とはかけ離れた空間がまず必要だ。特に重要なサービスはハレの日だからこそ我侭を叶えてくれるものであってほしいし、なんといっても気持ちの良い時間だったと感じさせるサービスが欲しい。おいしい料理であることは当たり前だが、見た目の美しさ、口に含んだときの驚きも感じさせてて欲しいものである。
ザ・ジョージアンクラブ。ここはすべてがゆっくりだ。決め細やかな泡立ちのシャンパンを飲みながら、ゆっくりメニューを決めて、ゆっくりワインを選んで、ゆっくり料理を楽しむ。料理に関しては、味わいは全体的に軽めながら素材の持ち味を重視したものが並ぶ。オーダーした鶉のローストにフォアグラなど詰め物をしたメインディッシュは、歯応えのある鶉の火の通し加減は完璧で、肉と共にとろけるフォアグラとのマリアージュは今も記憶にはっきりと刻まれている。また白胡麻のパンはこれまで食べたパンの中でも秀逸な出来だと思う。チーズも非常に多くの種類が揃っているのでワインと共にこれもゆっくりいただきたい。食後酒までいったら気分はもう古き英国文化の真っ只中にいることに気がつくだろう。
優雅な時間に包まれる、まさに「大事な人と行きたいハレの日のレストラン」である。
港区西麻布1-6-4
03(5412)7177
12:00~13:30/18:00~21:30/日休 8月は全休
コース構成(夜):15000円 (昼は5500円、7500円)その他アラカルトあり。
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