恵比寿という場所を聞いて想像するものとしたら、ガーデンプレイス、エビスビール、ワット・ザ・ディケンズ、タイユヴァン・ロビュション、レトワール等など。私にとって恵比寿は全部食べることに関することばかり。恵比寿はフレンチから、イタリアン、居酒屋、バーなどいろいろなジャンルの評判の良いお洒落な飲食店がひしめく日本でも有数の場所ではないかと思う。


今回取り上げたカーエムというレストランについて、ネットや雑誌といったメディアでは「伝統的フレンチ」「力強い料理」「オーソドックス」といった料理に関するコメントが多い。いや、まったくそのとおり。

昨年来何度か通ったが、ちょっと僕の口には合わないな、という料理はほとんどない。それどころかほとんどの皿が記憶に残る、味わいのはっきりとしたものが多い。軽いか重いかと聞かれれば、非常に重い料理。肉も時間をかけて下ごしらえをして、焼加減に細心の注意を払っていることがわかる。塩加減もややきつめ。野菜もある特定のところから厳選しているようだ。その場限りの芸術品を創り出す雰囲気を一皿から十分感じることができる。
そう、食べ終わった時の満腹感が他のレストランと明らかに違うのだ。ぐっとくるお腹の重さはベッドに入る頃にやっと落ちつく。


そうか、これが伝統的フランス料理か、とわかったようなわからないような、良い悪いは別にして最近の健康志向に沿った見た目に美しく軽めの料理とはまったくの正反対だ。ここまで書くと「そうか、このレストランは濃くってとにかく伝統的なフレンチが食べられるんだな」と思っていただけると思う。

場所は恵比寿と言えど、駅から離れたものさびしい場所にあるし、サービスも何かと楽しませてくれるというものではない。ただ水が飲みたいな、と思ったら水が出るし、トイレにはさりげなく爪楊枝が置いてある。独特の風貌を持った宮代シェフ(私は哲学者的な印象を持ったのだが)の話は、一言ひとこと重みがあり、信頼できる方であることがすぐにわかる。
一つ一つが決して派手な印象ではないのだが、主張のはっきりとした料理とさりげないサービスの組み合わせも悪くはない。


先日、私のワインの先生であった故藤本義一先生の紹介で知り合った方々と2年ぶりにカーエムで食事をする機会があった。テーブルを囲んだ方々は相当なグルメばかりであったが、雰囲気やサービスより料理!という点でいくつかのフレンチから選んだのがこのカーエム。藤本先生の想い出話の合間で、サービスされた料理についての話題が多かったのは皆が最近トラディショナルな濃いフレンチに飢えていたことが原因かもしれない。

カーエム
渋谷区恵比寿南2-23-12エビスサニービル1F
03(3711)9328
12:00~14:00/18:00~21:00/月休
コース(夜):6500円、10000円
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