河村選手の検査結果は……
ところで、河村茉依選手の検査結果である。野澤さんはこう宣告した。
「うーん、この結果だけ見たら、河村さんの目の能力はいいとは言えないですね。速い動きがあまりできないし、奥行きをともなう見方もできないし。バランスも極端。右目と左目を使う割合が8・5対1・5ぐらい」
たとえば、眼球運動のトレーニング方法のひとつに「ブロックストリング」というものがある。
写真のように、ヒモに通した距離の違うビーズを、それぞれ5秒間ずつ見つめるだけの簡単な方法だ。
ヒモの向きを上下左右に動かして見える角度を変えながら、「両目を寄せる」「両目を近くから遠くに向ける」「素早くピントを合わせる」などの眼球運動を行なう。
そのときのビーズの見えかたによって、両目の動きが正常か否かを自己診断したり、弱い部分を鍛えたりできる。
河村選手の場合、ヒモが正面から右目の側に向いているときは、支障なく眼球運度ができる。
ところが、ヒモの向きを左目の側に寄せると、ものの3秒もしないうちに左目のまぶたがピクピクしてくる。
左の黒目が外側に寄らず、「中央部」に戻っていこうとするのだ。左目の眼球運動がスムーズでないことがはっきりとした。
竹内さんの「テスト」でも……
竹内さんは、やっぱり、という表情になる。そして、「河村、ジャグリングできないだろ」と言って、ピンポン球を3個渡す。
受け取った河村選手は、いわゆる「お手玉」の要領でやってみる。が、全然つかめず、「できないですね」とため息をつく。竹内さんによれば、ジャグリングは周辺視の能力だという。手の感覚も必要だが、何よりも3個のボールを取り込む視力が必要なのだという。
竹内さんが投げるボールを紙コップで受ける河村選手 |
そして少し離れて正面に立ち、ピンポン球を左右に投げる。
投げるというより、アンダースローで山なりのボールをほおる。
河村選手は、自分の右側に来たボールは右手の紙コップで、左側に来たボールは左手の紙コップで受けるというものだ。
河村選手が構える。竹内さんがほおる。
右側に投げられたボールは、問題なく紙コップに納まる。
左側に投げられたボールは……なかなか入らない。それどころか、最初のうちはかすりもしない。
はたから見ていると、演技でもしているんじゃないかと思えるほど対照的で、おかしいぐらいだ。
一緒に見ていた野澤さんがつぶやく。
「左目から映像が消えちゃうんですね」