驚くほど少ない農薬の使用量
総合防除の考え方もあり、ゴルフ場の農薬使用量は劇的に削減している |
山添村でのゴルフ場反対運動も“農薬まみれのゴルフ場建設反対”という、農薬からの健康被害を訴える内容でした。ベトナム戦争の枯葉剤や名張毒ぶどう酒事件のような例は、それらの毒性の強さを強く印象付けています。
現在、日本で登録されている農薬は急性毒性の低いものです。例えば、中国毒ギョーザ事件で混入されたといわれている毒性の強いメタミドホスは日本では認可を受けていません。本書によると、毒性を測る基準とされる「急性経口毒性」のLD50(50%の被験動物が死亡する用量)という指標で計ると、ニコチン、カプサイシン、カフェインなどに比べても現在の農薬の急性毒性は低くなっています。つまり、触ったり吸ったりした瞬間に、直ちに重大な健康被害が出ることはまずないといえます。
さらに、農薬自体の使用量も劇的に削減されています。80年代後半あたりからは世間の批判にさらされ、ゴルフ場側も減農薬に取り組む必要性に迫られました。経費削減という観点からも減農薬の必要性はあったようです。過去には大量の農薬を使った時代もありますが、研究と法規制が進んだこともあり、大幅な減農薬が展開されています。
88年、89年に25のゴルフ場で調査した結果によると、ゴルフ場あたりの年間の農薬使用量は2059.8キログラム。現在はさらに減農薬がすすんで、ほとんどが1トン以下。多くの場合は、500キログラム前後だと言います。
ゴルフ場自体は、広大な土地です。年間500キログラムだとすると、芝生1アール(10m四方)あたりの年間使用量は125グラム。マヨネーズの入れ物のちょうど半分くらいです。10メートル四方に、1年間365日の使用量がマヨネーズ半分くらい。農薬の毒性を否定するものではありませんが、一般的に想像されている農薬の使用料よりも、実際にはずっと少ないのです。
現在は、総合防除という考え方がすすんでいます。総合防除(Integrated Pest Management: IPM)とは、「病害虫防除の生態学的アプローチにより、あらゆる有効な技術を評価、融合させて、病害虫の密度を支配し、経済的被害を避け、環境破壊を最小限に留めるシステム」と定義されています。
様々な手法を組み合わせ、農薬使用も必要最小限に留め、環境や生態系に配慮する総合防除の考え方は減農薬にとどまらず、ゴルフ場の環境保全に良い影響を与えるでしょう。