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至近距離から見た、幻のUFC王者の流転の一年 「ジョシュ君のこと」(1)

史上最年少のUFC王者の栄光をドーピング疑惑で奪われ、未経験のプロレス界に身を投じたジョシュ・バーネット。はからずも僕の至近距離で繰り広げられた一年間の苦闘をお話しよう。

執筆者:井田 英登



月4日、新日本プロレス恒例の東京ドーム大会のメインイベントは、プロレスアレルギーの格闘技ファンでも少し結果が気になるような試合だったのではないだろうか?

 ステロイド剤使用疑惑で王座をはく奪されてしまった幻のUFC王者ジョシュ・バーネットの参戦である。プロレスでは何の実績もなかった格闘技系の選手が、いきなり現IWGP王者の永田祐志の対戦相手にピックアップされたという扱いは、元UFC王者の肩書きもあっただろうが、ジョシュという素材自体に新日本プロレスの寄せる期待に他なるまい。

 ただ、そのジョシュの姿をTV観戦した僕は、非常に複雑な心境であったことをここに告白しておこう。実はジョシュには、こういう形で日本デビューを飾る気持ちが一切なかったからだ。

 昨年三月、ラスベガスで前チャンピオン、ランディ・クートゥアを破ってUFCチャンピオンに就いた時、ジョシュは幸せの絶頂にあった。わざわざこの日のために駆け付けた両親と恋人に囲まれながら「次の防衛戦はロンドンだろう。リコと闘うよ。ロンドンで会おう」と破顔していたのを思い出す。しかし、7月、初めて大西洋を渡ったオクタゴンの中にジョシュの姿は無かった。

 王座獲得から二週間後、抜き打ちで行われたドーピング検査の結果、ジョシュの尿からステロイド成分の陽性反応が出たため、試合を統括したネバダ州のアスレチックコミッションが、試合の無効と6カ月間の試合出場停止を申し渡したのだった。

 24歳、最年少王者として立った栄光の頂点から、一気に“汚れた王者”として奈落の底へ。後に僕がジョシュ自身から聞いた言い分では「ステロイド剤は一切使っていない。自分が摂っているのはハーブ系のサプリメントでしかないはずだ。zuffa(UFC運営会社)は思い通りにコントロールできない僕を追いだしたかっただけなんだ」という。

 その言い分を鵜呑みにするわけではないが、実際ステロイド検査にはかなりの金がかかり、UFCでも全選手に義務づけている物ではない。むしろ今回の検査は抜き打ち的なものであって、かなり唐突な印象を受けた。こういってはなんだが、総合というフィールドではまだ薬物使用のタブーはまだ行き渡っているわけではない。UFCの場合、カジノでの賭けの対象になるという意味もあり、コンペティブな競技に整備が進んでいる最中ではある。しかし、そのUFCであっても全選手にドーピング検査を義務づけたら、かなりの数の選手が失格するのではないかというのが現状だ。

 競技の頂点に立つチャンピオンだからこそ、身を厳しく処すべきであり、規範を示すためには例外扱いせずに厳しく扱うというzuffaの姿勢はわからなくはない。ただ、これからMMAの顔になっていくはずだったの若く才能あふれたチャンピオンを、その礎として埋もれさせてしまうのは余りに惜しい。

 かくて、チャンピオンから一転闘う場所を失ったジョシュは、7月になって僕にメールをよこした。「8月にボブのセコンドで日本にいくよ。逢って話を聞いてくれないか」と。“ボブ”とは、当時ルール無用の暴走ファイトでブレイク直前にあった、今をときめくボブ・サップのことである。石井館長の秘蔵っことして、モーリス・スミスに預けられたサップは、ジョシュの所属するAMCのチームメイトとなっていたのである。

 Dynamite !前後の約一カ月、サップとともに日本に長期滞在することになったジョシュの来日には、もう一つの目的があった。

 それは、職探しである。
 
 そう、ネバダコミッションに登録している全ての格闘技団体は、出場サスペンドの掛かったジョシュをブッキングできないため、UFCを追放されたジョシュを使える団体は(少なくとも彼のヴァリューに見合うギャランティーを準備できる規模の団体は)アメリカには存在しなくなってしまったのだ。

 ならば格闘技マーケットでは世界最大の日本に単身上陸してしまえばいい。若いジョシュは、自ら進んで“ガイジン”として日本マーケットに、チャンスを求めたのであった。

[新日本プロレス]「WRESTLING WORLD 2003」

 2003年1月4日(土)
 東京ドーム



 
 第11試合 IWGP選手権試合
 ○永田裕志
 ×ジョシュ・バーネット
 10分40秒 片エビ固め



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