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世界初の長編ミステリーを味わう(2ページ目)

18世紀半ばのフランスで活躍した作家エミール・ガボリオ。その生涯と世界初の長編ミステリー『ルルージュ事件』に迫ります。

執筆者:福井 健太

世界初の長編ミステリー
『ルルージュ事件』

『ルルージュ事件』
パリ郊外の村で寡婦が殺された。アマチュア探偵・タバレが暴いた意外な真相とは? 世界初の長編ミステリーと称される歴史的価値の高い1冊だ。
エミール・ガボリオが1866年に発表した『ルルージュ事件』は、世界初の長編ミステリーとして知られている――という話は前ページで述べたが、その日本初の完訳版がついに刊行された。過去の訳書はいずれも抄訳であり、新聞連載から143年を経てようやく全貌が明かされたわけだ。ミステリー大国の日本において本作が放置されていたことが(むしろ)不自然だったのである。

1862年3月――パリ郊外のラ・ジョンシェール村で、寡婦クローディーヌ・ルルージュの他殺死体が発見された。被害者とその元夫の素性を誰も知らないことが判明し、捜査の難航を予想したパリ警視庁のルコック刑事は、アマチュア探偵のタバレに協力を要請することにした。タバレは次々に謎を解き明かすものの、やがて事件は思わぬ展開を見せることに……。設定と展開は(現在の目から見ても)オーソドックスなものだが、これは"元祖"としては自然なことだろう。「著名な警察関係者の回想録というのはよくできた物語のようで、興味の尽きないものです」とタバレに言わしめた著者は、現実の捜査から着想を得たうえで、そこに意外性の魅力を盛り込んでみせた。かくして本作はスリリングな捜査と逆転劇を備えたミステリーになり得たのである。

1世紀半前に書かれた物語だけに、現代的なミステリーよりもテンポが悪いきらいはあるが、それも含めたレトロ感を楽しむのが賢明というものだろう。ミステリー史を教養主義的に押さえたい人はもちろん、そうでない人もレアな読書体験を得られることは間違いない。本書の刊行は翻訳ミステリーの歴史における大きな道標なのだ。

【関連サイト】
エミール・ガボリオとは…「Weblio辞書」における「エミール・ガボリオ」の項目です。
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