先輩を殺された警察官の苦悩を描く
スウェーデンミステリーの記念碑的傑作
ヘニング・マンケルの最新邦訳書『タンゴステップ』は、ヴァランダーの登場しないノンシリーズもののサスペンス長編。本国では2000年に発表され――"ある題材"が使われているにも関わらず(だからこそ?)――2002年にドイツ語版が刊行された際、ドイツでベストセラーの第1位を記録したという話題作である。舌ガンの告知を受けた警官ステファン・リンドマンが目にしたのは、かつて指導を受けた退職警官ヘルベルト・モリーンが惨殺されたという新聞記事だった。ステファンはモリーンの住んでいたヘリェダーレンを訪れるが、今度はヴァイオリン奏者のアブラハム・アンダソンが殺されてしまう。同一犯の仕業として捜査が続けられ、リンドマンは歴史の巨大な闇を知ることになる……。モリーンを殺したアーロン・シルベシュタインの正体は最初に明かされており、第二の殺人犯は終盤まで伏せられているが、本書の重心は犯人探しよりもリンドマンの苦悩と歴史の闇の探索に置かれている。決して"明るい話"でも"愉快な話"でもないけれど、息詰まるような緊張感とハードな展開、スウェーデンの暗部を抉り出す筆致などは社会小説としての香気を感じさせる。それが日本人にとっても興味深いエンタテインメントになり得ていることは言うまでもない。〈ヴァランダー〉シリーズの読者はもちろん、そうでない人にもお勧めの重厚な逸品なのである。
【関連サイト】
・henning mankell…ヘニング・マンケル公式サイト(全文英語)。
・タンゴステップ…東京創元社公式サイト内の『タンゴステップ』紹介ページです。