ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

バカミスキングの新境地(2ページ目)

正統派の謎解きをしっかりと踏まえつつ、奇抜な趣向で読者を楽しませる名手・霞流一。その魅力を掘り下げてみましょう。

執筆者:福井 健太

本格ミステリーの直球『呪い亀』

『呪い亀』
「連続不吉事件」の調査に乗り出した私立探偵を待っていたのは、亀づくしの連続殺人だった。高純度の本格ミステリー。
霞作品には変化球めいた印象を残すものが多いが、正統派のパズラーにも優れたものが少なくない。『呪い亀』はその代表格といえそうだ。新規オープンを控えた映画館のオーナー・那須福太郎は、周囲で頻発する不吉な事件に悩まされていた。那須に「連続不吉事件」の解明を命じられた私立探偵・紅門福助が調査に乗り出すと、それが合図だったかのように連続殺人事件が発生する。亀の甲羅にまたがった死体、性器を切り取られた死体、夜の街を疾走する老人――亀にまつわる見立て、密室の焼死体、衆人監視下の人間消失など、次々に現れる謎を紅門はいかに解明するのか? 多くのアイデアを投入し、濃密な謎解きを構築した読み応えたっぷりの傑作。探偵役の紅門福助は『フォックスの死劇』に初登場したキャラクターで、他にも『ミステリークラブ』『デッド・ロブスター』『おさかな棺』『サル知恵の輪』などで活躍を見せている。

犯人探しとアクションを融合させた
大胆不敵な最新作

『夕陽はかえる』
暗殺者が不可能状況で殺された。元同僚は殺し屋の中に潜む殺人犯を推理していく。シュールな設定が活かされた会心作。
これまでに挙げた作品からも解るように、著者はオーソドックスな謎解きとユニークなアレンジの双方を重視している。最新刊『夕陽はかえる』はその持ち味が高いレベルで結実した野心作だ。暗殺組織の幹部〈青い雷光のアオガエル〉こと戸崎亜雄が、ビルの5階のレリーフに刺さった変死体となって発見された。遺族の依頼を受けた〈ジョーカーの笑うオペ〉こと瀬見塚眠は捜査を始めるものの、戸崎の後釜を狙う暗殺者たちに命を狙われてしまう。瀬見塚は死闘を生き延びられるのか? そして殺人犯の正体は? 知略を尽くしたアクションに不可能犯罪を重ねることで、本作では極めてユニークな世界が描かれている。殺し屋が探偵役を務め、殺し屋の中から殺人犯を探す――という状況下では、全員が自白して「殺害方法は企業秘密」と嘯くこともあるわけだ。本格ミステリーとアクション小説の楽しさを混ぜ合わせ、化学変化のように斬新なシチュエーションを現出させた発想は高く評価されるべきだろう。アクション映画のマニアでもある著者にしか書き得ない新たな代表作の誕生なのである。

【関連サイト】
霞流一探偵小説事務所…霞流一の公式サイト。毎日更新される日記と著作リストなどがあります。
【編集部おすすめの購入サイト】
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