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「連続不吉事件」の調査に乗り出した私立探偵を待っていたのは、亀づくしの連続殺人だった。高純度の本格ミステリー。 |
霞作品には変化球めいた印象を残すものが多いが、正統派のパズラーにも優れたものが少なくない。
『呪い亀』はその代表格といえそうだ。新規オープンを控えた映画館のオーナー・那須福太郎は、周囲で頻発する不吉な事件に悩まされていた。那須に「連続不吉事件」の解明を命じられた私立探偵・紅門福助が調査に乗り出すと、それが合図だったかのように連続殺人事件が発生する。亀の甲羅にまたがった死体、性器を切り取られた死体、夜の街を疾走する老人――亀にまつわる見立て、密室の焼死体、衆人監視下の人間消失など、次々に現れる謎を紅門はいかに解明するのか? 多くのアイデアを投入し、濃密な謎解きを構築した読み応えたっぷりの傑作。探偵役の紅門福助は
『フォックスの死劇』に初登場したキャラクターで、他にも
『ミステリークラブ』『デッド・ロブスター』『おさかな棺』『サル知恵の輪』などで活躍を見せている。
犯人探しとアクションを融合させた
大胆不敵な最新作
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暗殺者が不可能状況で殺された。元同僚は殺し屋の中に潜む殺人犯を推理していく。シュールな設定が活かされた会心作。 |
これまでに挙げた作品からも解るように、著者はオーソドックスな謎解きとユニークなアレンジの双方を重視している。最新刊
『夕陽はかえる』はその持ち味が高いレベルで結実した野心作だ。暗殺組織の幹部〈青い雷光のアオガエル〉こと戸崎亜雄が、ビルの5階のレリーフに刺さった変死体となって発見された。遺族の依頼を受けた〈ジョーカーの笑うオペ〉こと瀬見塚眠は捜査を始めるものの、戸崎の後釜を狙う暗殺者たちに命を狙われてしまう。瀬見塚は死闘を生き延びられるのか? そして殺人犯の正体は? 知略を尽くしたアクションに不可能犯罪を重ねることで、本作では極めてユニークな世界が描かれている。殺し屋が探偵役を務め、殺し屋の中から殺人犯を探す――という状況下では、全員が自白して「殺害方法は企業秘密」と嘯くこともあるわけだ。本格ミステリーとアクション小説の楽しさを混ぜ合わせ、化学変化のように斬新なシチュエーションを現出させた発想は高く評価されるべきだろう。アクション映画のマニアでもある著者にしか書き得ない
新たな代表作の誕生なのである。
【関連サイト】
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霞流一探偵小説事務所…霞流一の公式サイト。毎日更新される日記と著作リストなどがあります。