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2006オススメ文庫BEST5(2ページ目)

もうすぐ2006年も終わり。帰省や旅行のお供に面白文庫本はいかがですか? 2007年は寝正月ならぬ“読み正月”で! 独断と偏見で選んだ2006年のオススメ文庫を5作品ご紹介します。

執筆者:石井 千湖

殺人鬼と人質による「マイ・フェア・レディ」【no.3】ピーター・ストラウブ『ヘルファイア・クラブ』

ヘルファイア・クラブ
『夜の旅』の作者をめぐる謎も魅力的!
主人公は、49歳の主婦・ノラ。現在は専業主婦ですが、若い頃はヴェトナム戦争で従軍看護師として働き、修羅場も経験している。女性看護師を戦場の飾り物扱いする舅に〈あなたのようなものの見方をすると、なにもかも安っぽくなるわ。悪いけど、胸がムカムカします〉と言ってのける剛毅な女性です。彼女が住む街で起こる連続殺人事件と夫の一族が経営する出版社で発生した著作権上のトラブル。一見関係なさそうなふたつの出来事を結びつけるのが、カルト的な人気を誇るファンタジー小説『夜の旅』。ノラはこの本をめぐる謎と陰謀の渦中へ引きずり込まれます。

物語の途中でノラは連続殺人犯に誘拐されるのですが、この殺人犯がすごい。ピーコのファッションチェックよろしく、ノラに駄目出しをするんです。下着を上下セットで揃えるように言い、髪形を整え、メイクアップを指導。服も買い与えます。やたらと美容方面に詳しいだけではなく、なんとノラに更年期障害の兆候があることを指摘し、対策法まで教える。

殺人鬼と人質による「マイ・フェア・レディ」。もちろん、いくら綺麗にしてくれても女を虐待することに無上の喜びを感じるような人でなしなので、ノラは戦うのですが。物語のラスト、彼女が事件の黒幕を遣り込めるシーンは痛快です!

音楽の不在を描いて音楽を感じさせる【no.2】古川日出男『サウンドトラック』

サウンドトラック
文庫にはボーナストラックとして「杉並区洪水警報」を掲載。
幼い頃、海難事故に遭い、無人島で出会ったトウタとヒツジコ。彼らはしばらくふたりだけのサバイバル生活を送りますが、島を訪れた大人に保護され、兄妹として育てられます。数年後、ヒツジコは子のない夫婦の養女となり、東京へ。そして共同体に馴染めず姿を消したトウタが、熱帯化した東京にあらわれたとき、物語は大きく動きだすのです。

海で遭難して以来、トウタは音楽を失います。聴覚には異常がないのに、音のつながりを感じ取ることができません。それゆえにこの作品では、『サウンドトラック』というタイトルでありながら、繰り返し音楽の不在が描かれます。不在ではあるのだけれど、ひとつひとつの言葉の響きそのものが音楽を感じさせる。たとえば文末に「た」や「る」を重ねて、脚韻を踏む。一歩間違えば単に下手な文章だと思われかねないのに、絶妙な使い方をしているので、読んでいて気持ちがいい。また、トウタの友人・レニが鴉のためにつくった映画(!)もサイレント。でも、無音という音があるような気がします。

それからなんといってもすごいのが、ヒツジコのダンス。揺らめく自分の影を見たことから踊りをおぼえたヒツジコは、高校生になると見た人の欲望を解き放つダンスを体得します。ヒツジコは踊るときに曲を必要としません。学校の講堂で、教室で、腕を動かし、上履きでシュッと床を摺る。それだけで、クラスメイトは魅入られる。ヒツジコの踊りの描写は圧倒的に迫力があります。

頭の中だけではなく、もっと深いところに震動を与えるような、ものすごくカッコいい小説です。

no.1は「読み終わるのが勿体ない!」と思える一冊>>>
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