世界遺産/アジアの世界遺産

アンコール/カンボジア(2ページ目)

均整のとれた幾何学美が美しいアンコールワット、巨大な仏面に覆われたアンコールトム、ジャングルに隠されたタ・プロームなど、60以上もの遺跡から生る世界遺産「アンコール」。全体を眺めて美しく、精緻なレリーフや女神像など細部を見ても美しい……今回はあらゆる美を備えたカンボジアの遺跡群アンコールを紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

四大遺跡1. アンコールのハイライト:アンコールワット

シンメトリーと熱帯の緑のコントラストが美しいアンコール・ワット。中央に行くほど高くなるピラミッド構造で、世界の中心にあるという伝説の山・須弥山(しゅみせん)を模しているともいわれる

シンメトリーと熱帯の緑のコントラストが美しいアンコールワット。中央に行くほど高くなるピラミッド構造で、世界の中心にあるという伝説の山・須弥山(しゅみせん)を模しているともいわれる

第一回廊の乳海攪拌のレリーフ

第一回廊の乳海攪拌のレリーフ。『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』は読みやすいので、ダイジェストだけでも読んでおこう

シュムリアップの街から5kmの場所に、カンボジアの国旗にも描かれているアンコールワットがある。遺跡は東西1,500m、南北1,300mで、スルヤヴァルマン2世が12世紀前半に3万人の労働力と30年の歳月をかけて建築した。入口である西塔門を抜けると写真でよく見るあの景色が展開する。身体が震える瞬間だ。

アンコールワットの中心部は、3層の廊下で「回」の字のように四角くぐるりと取り囲まれている。廊下は外側から第一~第三回廊と呼ばれ、中心に向かってだんだん高くなっていて、徐々に階段で上がっていく。全長760mにおよぶ第一回廊にはヒンドゥー教の叙事詩『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』の物語がビッシリと描かれている。

代表的なのは猿神ハヌマーンの物語や、天国と地獄を描いた物語、不死の薬アムリタを作る神話「乳海攪拌(にゅうかいかくはん)」など。レリーフは精密を極め、これをじっくり見ているだけで数時間を要してしまうほどだ。

第二回廊にはおびただしい数の女神像=デヴァダーが連なっている。そのさらに内部に第三回廊と中央祠堂があり、やはりデヴァダーや仏像が祀られている。中央の本堂には仏像が安置されている。

 

四大遺跡2. 仏面に覆われた神秘の遺跡:アンコールトム

バイヨンの四面塔

アンコールトム、バイヨンの四面塔。本殿には16本の四面塔が集中しており、神秘的というか異様な光景が広がっている

アンコールトムのバイヨン

アンコールワットの北に位置するアンコールトムのバイヨン。「バイヨン」とは「美しい塔」の意味で、50以上の塔が立つ様は壮観だ

ジャヤヴァルマン7世が1200年前後に建築した城塞都市がアンコールトムで、長らくここがアンコール朝の首都だった。王が仏教徒だったため、仏教の影響が色濃く残されている。遺跡は一辺3kmの城壁で囲まれた正方形をなし、東西南北それぞれに門がある。

見所は中央の寺院バイヨンだ。ピラミッド型の重厚な造りになっており、第一・第二回廊に囲まれた中心に本殿がどっしりと構えている。回廊はやはりレリーフが見所で、ヒンドゥー教の神話はもちろん、庶民の生活ぶりや当時の戦争の様子なども描かれている点がおもしろい。

バイヨンをバイヨンたらしめているのは四面塔と呼ばれる菩薩像で、四面に観世音菩薩の顔が大きく彫り込まれた塔がニョキニョキ連なっている様は異空間を思わせる。

これ以外にも、王宮跡地周辺にはライ王のテラス、ゾウのテラス、バプーオン、ピミアナカスなどと見所が多い。アンコールワットと並ぶハイライトといえる。

 

四大遺跡3. 密林に隠されたロストワールド:タ・プローム

タ・プローム

木々が遺跡に絡みついたタ・プローム。もともとアンコールワットもアンコールトムもジャングルの中にあったが、のちに修復されている

タ・プローム

ガジュマルの木に浸食されたタ・プローム

1186年、ジャヤヴァルマン7世の建てた遺跡だが、タ・プロームが他の遺跡と違うのは、ジャングルの浸食をそのまま残している点だ。ツタが遺跡に絡みつき、巨大な木々が遺跡を突き破ってそびえ立ち、森によって空は遮られ、ジャングルの暗さや臭い、鳥の声や虫の音が独特の空気を醸し出している。

アンジェリーナ・ジョリー主演の映画『トゥームレイダー』の撮影にも使われており、また遺跡に木々が絡みつく姿から、このタ・プロームがアニメ『天空の城ラピュタ』のモデルのひとつだという噂もある。

苔むしたその姿から、日本人には特に好まれている遺跡でもある。

 

四大遺跡4. ジャングルに咲く赤の遺跡:バンテアイ・スレイ

バンテアイ・スレイの祠堂

繊細な彫刻やレリーフが美しいバンテアイ・スレイの祠堂

バンテアイ・スレイ

緑の中に浮かぶ赤が美しいバンテアイ・スレイ。特に雨季は周辺の村々の景色も抜群だ

967年、ラージェンドラヴァルマンによる建築で、シュムリアップからバイクか車で約1時間の位置にある。

赤色砂岩で造られた遺跡は赤味を帯び、太陽光を浴びると緑のジャングルの中で花が咲いたように燃えあがる。繊細なデヴァダーで有名で、中央祠堂のものは「東洋のモナリザ」と称されている。

ちなみにこの近くに映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』で有名なカメラマン一之瀬泰造の墓がある。 

 

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