加害女児は「サイコパス」ではない
長崎同級生女児殺害事件は、このような「自己暗示(催眠)」による、非常に稀なケースだったと言えるでしょう。従って、このケースは「酒鬼薔薇事件」や「長崎幼児殺害事件」のような、性的衝動と密接につながったサイコパス(人格障害)による事件とは区別される必要があります。
「酒鬼薔薇事件」や「長崎幼児殺害事件」のように、殺人に性的な興奮を覚える少年には、殺人に至る前の段階で、必ずといっていいほど小動物虐待が現れます。長崎同級生女児殺害事件においては、現時点ではそのような報道はなく、一時的に神経症的傾向に入りこんでしまったゆえの自己暗示がきっかけとなったと考えられます。(「クラスメートを殺したくて仕方がない」と訴える少女への、生田先生のカウンセリング例はこちら)
『バトル・ロワイヤル』の影響
残酷なメディアの影響は? |
『バトル・ロワイヤル』がこの事件に影響を与えたとしたら、それは克明な殺人の情報でしょう。少女はこういった残虐なメディアを好んで読んだり見たりすることで、殺人の仕方を学んでいったのは事実だと思われます。
しかし、全ての子供の目の前から一切の残酷なメディアなどを取り上げることは、不可能です。先にも述べたように、思春期の子供が攻撃的な気分になり、暴力的なメディアを好むのは、非常によくあることであり、残忍なこと(死を連想させるものなど)への希求は子供の正常な発達の一段階でもあります。暴力的なメディアを取り上げたところで、子供は確実にそれを「探す」のです。
インターネット批判はナンセンス
インターネットに罪がある? |
むしろ、そのコミュニケーションの特色から、子供たちが居場所を得ることさえあります。確かに、「バーチャル感覚」という言葉に代表されるように、インターネットでのコミュニケーションは対面コミュニケーションに比較すると相互作用レベルが低くなり、相手の人格への認識が希薄になる面はあります。
ところが、そのおかげで言いづらいことが言いやすくなり、特に対面コミュニケーションでのストレスの高い子供(引っ込みじあんの子供、自己主張できない子供)は、インターネットのおかげで言いたいことを吐き出すことができ、自分の居場所を見つけることができるのです。
インターネットは手段に過ぎず、要は、他のメディア同様、使う人間の問題であると言えるでしょう。
子供が出す「サイン」
インターネット、暴力的なメディアなど、小道具ばかりが先行して報道されたため、同じような年頃のお子さんをお持ちの保護者が「もしやウチの子も……」と不安になることもあるかもしれません。
しかし、この長崎同級生女児殺害事件は、本来ならどこかで発散され、緩和されるはずの殺人衝動が奇妙なパズルが組み合わさっていくように凝縮していった、非常に稀なケースである、と生田先生は言います。
子供のサイン |
そのサインは、本当は「助けて。私を止めて」と大人に向けたSOS なのかもしれないのです。
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生田倫子(いくた みちこ) 先生
国立療養所岩手病院神経科・心療内科 心理療法士・心理判定士を経て、現在武蔵野大学人間関係学部講師、児童養護施設カウンセラー・コンサルタント、神奈川県警察本部被害者支援業務委託カウンセラー、横浜市教育委員会学校相談リーダー養成講座(上級)講師、NPO法人MCR(ひきこもり・家庭内暴力児相談)コンサルタント、他
生田先生がたずさわるNPO法人MCR不登校ひきこもり研究所はこちら
家族支援・子育て支援・虐待防止などの相談、家庭教師派遣、各種セミナーや講演会を実施
専門分野:家族問題、子育て支援、不登校、引きこもり、虐待防止、他
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