柔らかさに秀でるクロム鞣し!
植物タンニンで鞣されたものが無いわけではないのですが、今日アッパーに用いられる牛革は大方クロム鞣しだと思っていただいて構いません。軽く柔らかくて発色性に優れ、熱にも強い特徴があります。 |
一方、鉱物系の鞣し剤を用いるものの代表選手は、何といっても「クロム鞣し」でしょう。三価クロム塩などの溶液を用いる方法で、従来から無かったわけではないのですが、工場レベルで行われる近代的な方法は、1858年にドイツのフリードリッヒ・L・クナップなる人物が開発したようです。ただし最初に特許を得たのは1884年にアメリカのオ-ガスタス・シュルツなる人物らしく、この辺りは情報が混乱しているのですが、要は19世紀後半に主要技術が固まった比較的新しい鞣し方法であることは確かです。
この方法では下処理を終えた原皮を、「ドラム」とか「太鼓」などと呼ばれる一種の回転槽の中に入れ、そこに上述のクロム溶液を注入した上下方向に回転させることで、短時間に「皮」から「革」へと変えてゆくのが特徴です。その回転時間は平均6~12時間とタンニン鞣しに比べ圧倒的に速く、必然的にコストも割安になるため、20世紀以降大量生産時代の寵児として一気に広まりました。現在の世界全体の革需要のうち、恐らく8割以上はこの方法が何らかの形で絡んだ上で生産されていると思われます。
こうして出来上がった革は、柔軟性・弾力性・伸縮性・耐熱性・染色性等に極めて優れた特性を有しています。また三価クロム塩が安定性の高い分子構造であるせいか、軽くても変色し難い革に仕上がるなどの利点もあるものの、堅牢性・耐摩耗性・耐伸縮性や可塑性・成形性には劣るので、こちらは一言で申すと革の性能に「柔らかさ」や「色彩の豊かさ」が優先して求められる製品や部材に適しています。よって当然ながら、靴ではアッパー用牛革の鞣しとして用いられるのが専らで、底材にこの鞣し方法で作られるものは無いと考えていただいて結構です。例えば高級な牛革として有名な「ボックスカーフ(この名前の由来については諸説あり、また定義自体も錯綜しているのですが、それは別の機会に!)」も、典型的なクロム鞣しの革でして、近代の科学技術の恩恵を受けて作られたものなのです。
最後のページでは、「鞣し方法の今後」を考えてみます!