「自分の身体」になる靴!
CLEMATISのオーダーサンプルの一例、内羽根式のストレートチップです。シンプルなスタイルだからこそ、靴としての完成度の高さが全面に表れています。これと同じ仕様で価格は\163,000、シューツリーは別売りで\17,000(いずれも税込み)。 |
3年位前だったか、ファッション業界もマスコミ業界も全く関係ないとあるお堅い会合で、大変雰囲気のある靴を履かれていらっしゃる方にお目に掛かれました。こげ茶かバーガンディの内羽根式のプレーントウだったかな…… 「あざとさ」のかけらが微塵も無い引きしまった風貌ながら、出ている線の抑揚が豊かで、しかも佇まいは何とも奥ゆかしい文字通り「身体の一部」になっていた靴だったので、かえって目を惹いたのです。
「どちらでお仕立てになられたのですか? その靴」
もちろんお伺いしましたよ、その人に。すると……
「え、そんなに凄い靴なんですか? 出張でよく訪れる金沢の靴屋さんでオーダーしたものなんですよ。確かに履き心地は最高で、気が付くとふと履いてしまう靴なので、しまった、もっと大切にしないと作ってくれた職人さんに申し訳ないですよね……」
「いやいやご謙遜なさらずに。お手入れもしっかりなされていらっしゃるじゃないですか!」
「そうそうその職人さん、高野さんって言う方で、ご自身は東京にお住まいなんだそうです」
「ケアをしっかり行いつつ、ふと履いてしまう靴」って、作品に対する最上級の評価であって、職人さん冥利に付きますよね。そんな気にさせてしまうものを作ったのって、一体どんな方だろう? 以来ずーっと頭の中に残っていたこの職人さんが、自分のお店を持ったと噂に聞いたのは2008年の初冬のことでした。しかも鞄の職人さんとの共同店舗で、その鞄も次元を遥かに超えた素晴らしい品質らしい……
なかなか訪問できなかったけど、漸くご紹介できます! はい、今回採り上げるのは靴職人・高野圭太郎さんと鞄職人・小松直幸さんが腕を振るう、銀座のCLEMATIS(クレマチス)ですよ。
上の写真の靴の底面です。土踏まず部のくびれは、後述する通称「九分半仕立て」だから出せる職人技。ヒール後部に付いたゴムの形状は、まるで植物のクレマチスの萼片(がくへん)のようで、この店ならではの意匠です。 |
次のページでは、CLEMATISのオーダーシューズの製作プロセスをご紹介!