男の靴・スニーカー/ドレスシューズ

躍動、迫力、フルブローグ その2

「メンズシューズ基礎徹底講座」第6回は、前回に引き続きフルブローグのバリエーションをご紹介いたします。似たようなスタイルなのにそれぞれに独特の個性が光るのが、たまらないのです!

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

まだまだいろいろ、あるのです!

フルブローグの色々
フルブローグって一言で括ってしまっていますが、実はバリエーションが多彩で、目移りしがちなのです。


前回はフルブローグ、と呼ばれる靴の解説を致しましたが…… 記事を書いている途中から、どうもこれは一回では片付かないぞ、と言う心の声が強くなってまいりまして、引き続き今回もフルブローグです。確かにバリエーションが豊富なので、見ていて飽きが来ないですし、履き方もそれぞれ明確に違ってまいります。なお、「ブローギング」ならびに「ブローグ」とは一体何なのか? は以前の記事をご覧下さい。


日本で一番お馴染みなのは、多分これ!

リーガルのW105
日本でこの種の靴を語る際に絶対に忘れてはならない、リーガルの外羽根式のロングウィングチップです。この靴はフルブローグではなく、やはり「ウィングチップ」と呼びたい!


外羽根式のフルブローグで、上の写真のもののようにW字状のブローギングが土踏まずでは下降せず、そのまま踵まで延長されてゆくスタイルのものを、特にロングウィングチップと呼びます。「ロング」とは読んで字の如く、ブローギングが断絶せずに靴全体を長く覆っている所から来たのでしょう。また「ウィングチップ」とは、フルブローグの米語での呼び方です。

これでもう察しが付くかと思いますが、このスタイルはアメリカ系の靴ブランドが伝統的に得意としています。日本でのその代表は、何と言ってもこの写真の「リーガル」のものでしょう。以前も書きましたが、少なくとも1960年代から1980年代までのビジネスウェアの装いの基本は、日本ではアメリカのそれをお手本とするのが主流でしたから、戦後~1960年代生まれの男性の読者の方なら、ちょっと無骨な雰囲気を持つこの靴、一度は履いた経験ありますよね? その風貌から「おかめ」なんて俗称もあったくらいですから。

スーツであれジャケットであれ、やっぱりこの靴は素朴なアメリカントラッドな装いのものとの相性が、もうダントツです。ただそれゆえ、若い読者の方はあまり魅力を感じない靴かもしれません。きらびやかさが軸になっている近年のメンズファッションの潮流とは全く相容れないスタイルですから、一頃前に比べこの靴の遭遇率は、確かに減っています。が、骨太で地に足をしっかり付けられそうなこういう靴を、惰性ではなく意味をきちんと汲んで履くことが出来る人こそ「かっこいい」のですよ、本当は!


クレープソール付きのものは、休日の小旅行に最適

チャーチのフェアフィールド
クレープソール付きのカントリーフルブローグの代表、チャーチのフェアフィールド。内羽根式なのに重厚感が漂ってくる不思議な靴です。


天然ゴムの樹液を酢酸で固めたゴム板からできたラバーソールを、俗に「クレープソール」と言います。やがて紹介することになると思いますが、デザートブーツやワラビーにも付いている、あの独特の凸凹感があるグニャっとした底です。

耐水性や耐摩擦性、それにクッション性には大変優れるものの、若干熱に弱いので真夏のアスファルト上で履くと、へばり付くような感を覚えることもあります。革底に比べ厚みも若干あるので、専らカジュアルシューズに用いられますが、ドレスシューズ系ですと他の何を差し置いてもこのフルブローグ、特にアッパーは茶系スエードと相場が決まっています。どうしてだろう?

確かにクレープソールは同じブローグ系でもセミブローグには似合わないし、もっと軽快なスタイルのUチップでもどうもしっくり来ない…… 恐らく、このスタイルがもともと持っている躍動的で賑やかな容姿と、スエード並びにクレープソールが持つカジュアルな素材感とが、バランス良く調和するからでしょう。実際、休日にちょっと郊外へ小旅行、みたいな時この靴はとても重宝します。ツイードのジャケットやBarbourのオイルドジャケットのようなカントリーテイストの服とは雰囲気が見事にマッチしますし、それ以上に土の道にも雨にも強いと言う意味で、極めて実用的だからです。


次のページは「精悍かつ清楚な、ブラインドフルブローグ」などです。
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