やっぱり天才なんだ、ステファノは。
工房を構えてわずか10年あまりでイタリア屈指の洒落者フランコ・ミヌッチ(タイ・ユア・タイの主人)に認められ、一級の工芸品のみが集うDAギャラリーに永久展示された、ステファノ・ベーメル。天才アルティジャーノとの賛辞の嵐が巻き起こったこの男の次の一手を見て、改めて僕はウムムと唸ってしまった。
新レーベルの名は「ベーメルズ」という。レストランを経営するなど実業家として活躍していた兄、マリオが職人ステファノの姿に感化され、長じて業界入り。数年の修行期間を経て、二人で立ち上げたのがこの、「ベーメルズ」だ。
グッドイヤーウエルト製法、レザーソールなどなどあくまで本格靴をベースとしながら、アッパーを彩るステッチワークがまったく新しい靴を生んだ。
一言でいえば、そのテイストは「スポーツ」。しかし、従来の「スポーツ」という概念ではくくりきれない。それはもちろん、本格靴にスポーツテイストを融合させた「コロンブスの卵」的発想も大きいけど、それ以上に、そのステッチが描くデザインにオリジナリティを感じるからだ。ビスポーク・レーベル「ステファノ・ベーメル」でもフォルムとパターン、それに素材使いで本格靴だってまだまだ面白いことができるってことを証明して見せ、保守的な靴業界を驚かせたものだが、彼の精神性は「ベーメルズ」においても健在、いやむしろ、「ステッチで遊ぶ」という業界の禁じ手をフリーにしたことで一層、自由度が増した。
ステファノが目指したモノはなんだったのか。それは「ベーメルズ」の名でラインナップした商品群を見れば一目瞭然だ。靴、鞄、それにシャツ。彼は新しいライフスタイルを提案しようとしているのだ。「ステファノ・ベーメル」はあくまでこれまでの靴の歴史に範を垂れる。したがって、すでにあるスーツ・スタイルでコーディネートは完成する。しかし新感覚シューズ「ベーメルズ」は、合わせるべき上物に対しても答えを出さなければならない。ステファノは新しいスタイルを、トータルで、積極的な意思をもって創造しようとしているのだ。だから扱いアイテムはこれからも増えていくに違いない。
なんて色々書いてみたけど、言ってしまえばそれは、オフシーンへの新たな提案だ。オフの日がカジュアルとかリラックスとかを求めるものだとすれば、価格面では値ごろ感が前提になる。一足8万円を超えることを考えると、購入者層はオンのときに云十万円の靴を履いている人、ということになる。つまり、富裕階級が相手なのだ。確かに日本でも空前の本格靴ブームが巻き起こったけど、彼らの多くはエンスー的視点で靴を選んでおり、ステファノが考えるスタイル提案を受け入れるとは考えにくい。なので日本では、オンに対するオフ、という切り口ではなく、モード靴として、ファッション業界へアピールしていくのが正解だと思う。なんて知った風な解説はおせっかいなことこの上なく、この靴、実はすでにファッションピープルの間で火がつく気配。先物買いのあなた、一足はもっておいて損のない靴ですよ。
価格
シューズ\81,900、バッグ\168,000、シャツ\50,400
ベーメルズ
ADDRESS 渋谷区神宮前3-1-26
TEL. 03-3478-1198
OPEN 12:00~20:00(月曜定休)
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