日本だけの現象かと思っていたら、世界にも靴をつくって生計を立てたいなんて奇特な若者はいて、すでに頭角を現していた。そして、ここで紹介する2人はドレスシューズに新風を吹き込もうとしている点で、いみじくもスタンスが一致している。
PERON&PERON
プラスアルファの情熱が新しさを生む。
初めて目にしたときの印象は、とにかく面白いヤツが出てきたな、というものだった。鳥の羽根を思わせる、実に独創的なバンプの処理。少なくとも僕の靴取材歴の中では、出会ったことのない靴だった。
ペロン&ペロンの創業は68年。その町に根付く昔ながらの靴屋といった感じで、オーナーのブルーノ・ペロンと奥さんのマリーザ2人で工房を切り盛りしていた。もちろんその靴はクラシックそのもので、地元の顧客を相手にひっそりと商売を続けていた。後に確かな腕が認められ、ナポリにあるロータリークラブのオフィシャル・サプライヤーに選ばれる。
転換期は、息子のシモーネ・ペロンの加入だ。シモーネが家業に加わったのは今からおよそ10年程前。そして95年、ニュウミという新しいコレクションを発表する。
「何百年かけて培った靴の伝統は尊敬しています。だからあくまで基本はクラシックな靴にあります。ですが、自分がやるからには何か、プラスアルファの新しさが出したかったんです」
イタリア人とは思えない誠実な応対に好感がもてる。彼のいう“新しさ”は日本のバイヤーの目にもとまり、定期的にス・ミズーラ(イタリアの注文靴の呼称)を開催するテーラー、ICHOのほかに、、ユナイテッド・アローズやアリストクラティコなどがプレタ・ポルテを扱っている。
靴づくりは面白い。その本質を多くの人に理解してもらうためにもいずれは学校を開きたい―そう語るシモーネに、最後に靴づくりの本質とは何かを聞いてみた。
「伝統と伝統の上に成り立つ技術に、情熱を加えることです」
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ス・ミズーラ価格40万円、プレタ・ポルテ32万円。ICHOでは9月に採寸会を開催予定。
(問)ICHO tel.03.5766.5680
HUGO&ENZO
レディス畑で培った感性がドレスで花開く。
「実はね、面白いモノが入ったんですよ」
たまたま立ち寄った僕に、ワールド・フットウェア・ギャラリーの名物スタッフ、日高さんが今日入荷したばかりだと言って見せてくれたのがウーゴ&エンゾだった。
「デザインもさることながら、つくりがすごい。この価格帯でこれだけのモノは見たことないですね」
日高さんに言われるまでもなく、その完成度は実に高い。ポルトガルで生産していると聞いてのけぞった。世界有数の下請け国とはいえ、しょせん下請けじゃないかという思い込みが僕にはあった。それに得意分野はカジュアルのはず。ここまでのドレスシューズがつくれるとは正直思っていなかった。
とどめを刺してくれたのがそのデザインだ。トウ先を斜めにカットした、ノーズの長いフォルム、アシンメトリーなスキンステッチ、そしてサイドの巻き上げ…。今度デザイナーが来日するというので早速会ってきた。
デザイナーの名前はジョルジ・クーニャ。彼によると、ウーゴ&エンゾのオリジンは、長年ベルルッティでシューメーカーを務めてきた彼の親父さんが95年にパリで立ち上げたスール・ムジュール(フランスの注文靴の呼称)工房にある。ジョルジはレディスのアパレル会社でデザイナーを務めていたのだが、工房開設に際し、親父さんに請われ、ビスポーク・サンプルのデザインを任される。プレタを開始するのは2000年のことだった。
「レディスに比べて、メンズの世界は何て退屈なんだろうって思ったね。売り場の靴はどれも一緒に見える。もっと遊んでもいいんじゃないかと考えたんだ」
その感性はすでに高く評価されている。エルメスとのコラボでも知られる、ローマン・スタイルを代表するテーラー、チフォネリをはじめ、世界で30軒のショップに並んでいる。
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価格(3点とも)5万5000円。(問)W.F.G. tel.03.3423.2021
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