「グランサンク(Les Grand Cinq)」という言葉、どこかで聞いたことがあるかもしれません。このフランス語を英語に直すと、その意味は The Big Five。これはパリのヴァンドーム広場とラペー通りにある5つの老舗ジュエラーを指すのです。今回は、女性誌などでひんぱんに使われる「グランサンク」というキーワードに迫ります。
ヴァンドーム広場にあるフランス高級宝飾店協会とは?
五大宝飾店などとよく訳されるグランサンクですが、そのメンバーは創業年度の古い順に、メレリオ・ディ・メレー(1613年)、ショーメ(1780年)、モーブッサン(1827年)、ブシュロン(1858年)、ヴァン クリーフ&アーペル(1906年)の5社。グランサンクは通称で、正しくは「フランス高級宝飾店協会」と呼ばれます。世界五大宝飾店、などと訳すのは、はっきりいって間違い。
ここになんでカルティエは入っていないの? ブルガリは? ティファニーは? といった疑問もわいてくるかも。でもグランサンクはパリの宝飾店の協会なので、イタリアやアメリカのジュエラーは含まれません。またカルティエは、古くは一時入会していたこともあったようですが、すぐに退会してしまいました。どうもカルティエは昔から同業者どうしでひとまとめにくくられるのを嫌う体質があるようです。
このフランス高級宝飾店協会、1940年代初めから始動し、1947年頃に正式に結成されました。初代会長はマルセル・ショーメ。スタート時はいくつものメゾンが参加していましたが、徐々に減っていき、最終的にヴァンドーム界隈の5社に落ちつきました。
1980年代くらいまでは、さまざまな活動もありました。パリの「アンティークビエンナーレ展」にそろって出展したり、オテルリッツで合同新作発表会などを開いたり。ショーメ家、モーブッサン家、ブシュロン家、アーペル家……リッツで会合するファミリーのトップたち。想像するだけでも優雅な光景ですが、今ではメレリオ・ディ・メレーをのぞく4社から創業者一族が離れてしまったために、活動はほとんど行われていません。家族経営の時代は終わってしまったのです。
というわけで、今やパリで「グランサンク」といってもわかる人はほとんどいないのが実情。ショーメで古くからセールスを務めていた人物にも直撃しましたが、「グランサンク? 今どき聞きませんね、そんな呼び方」とのこと。グランサンクは今や日本でだけ通用する特殊なネーミングになってしまったようで、ちょっとがっかり。