19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、プラチナを使った極めて繊細なジュエリーが、ヨーロッパやアメリカを席巻していました。“ガーランド(花手綱)”“エドワーディアン(エドワード王朝風)”と呼ばれるスタイルです。この指輪のデザインは、まさにこのスタイルに当てはまります。
左:《ティファニー》エンゲージメント・リング
プラチナ/ダイヤモンド ¥3,000,000
右:エタニティ・リング
プラチナ/ダイヤモンド ¥350,000
※同時期のものですが、これはティファニー社製ではありません。
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オープン・セッティングで十分に光が入るように留められた、大粒のダイヤモンド。プラチナの縁には小さなビーズ状の彫金“ミルグレーン”がほどこされています。ダイヤモンドの形状は、オールド・ヨーロピアン・カット。現在のラウンド・ブリリアント・カットが成立する以前の、古いカッティングです。
現在の日本で高い人気を誇っているのは、これ以上はないくらいミニマイズされ、画一化された婚約指輪。ダイヤモンドはどれも“エクセレント・カット”に執拗なまでにこだわった、個性のない石ばかり。このアンティーク・リングは、その対極にあるといえるでしょう。
ベル・エポック期の王侯貴族たちが愛した、夢見るような優しく甘いデザイン。オールド・ヨーロピアン・カットのダイヤモンドは、とても質のよい原石が使われているため、深みのある優美な光輝を放ちます。光学的に計算された現在のラウンド・ブリリアント・カットとは違い、ギラギラした強い光はありませんが、存在感ではまるで負けていないことに驚かされます。
しかし1914年、戦争という大きな波が世界を呑み込むとともに、このエレガンスを極めたガーランド・スタイルの技術と構想は消え去り、二度と復興することはありませんでした。現在のティファニーに足を運んでも、もうこのような美しい指輪との出会いは望めません。
20世紀初頭のほんのわずかな間に隆盛した繊細なプラチナ細工は、もはやアンティーク・ジュエリー・ショップやオークション・ハウス、博物館でしか見られなくなりました。そして、それらを身に着けていた王族や貴族、ブルジョアジーのしとやかな女性たちも、どうやら今ではとても珍しい存在になってしまったようです。