「サービス提供」だけじゃなく、人と人とをつなげたい
病児保育にあたるのは、子育て経験者(写真提供:病児保育のフローレンス) |
フローレンスの場合は、「この利用会員にはこのレスキュー隊員」という担当が決められており、できるだけ同じ人どうしが継続的に関わることができるような仕組みになっています。
例えば、子どもが実際に病気になる前の元気なときに、「慣らし保育」として1~2時間預けてみるというのもそのひとつ。病気のときにいきなり知らない人に預けられるのは、子どももかわいそうだし親も不安。そんな配慮からこうした事前交流を重視しています。
また、利用会員とレスキュー隊員が親しくなって、野菜を「おすそ分け」してもらったり。そんなつながりも生まれてきています。
「“便利なサービスができました”ではなく、“地域での助け合えるコミュニティを作っていきましょう、参加してみませんか?”というのが、僕たちの目指すところなんです。」駒崎さんのこんな思いは、少しずつ形になっているようです。
今後の課題は、「助ける側」を増やしていくこと
「フローレンス」は現在、中央区と江東区で活動しており、その中で利用会員が25人弱、レスキュー隊員は18人(2005年6月21日現在)。新聞やテレビにとりあげられることの多い最近では、利用会員の入会希望者には、入会を待機していただいている状態です。「単に運営していくだけだったら、もう少し利用会員の定員を増やすことも可能です。でも、今のような相手の顔が見えるいい関係を作っていきたい、“質”を維持したいと思うと、簡単に定員を増やすことはできないんです。難しいところですね。」同じく「フローレンス」広報担当の岡本佳美さん(32歳)はこう言います。
利用したい人は多いけど、助けることのできる人はなかなか見つからない。このギャップを埋めるべく、レスキュー隊員を増やしていくことが、今の課題です。
「子育て支援」の新しい風に
失礼ですが、駒崎さんに「子育て経験のない20代の独身男性が、なぜこういった事業を?」と聞かれることも多いのではないでしょうか、という質問をぶつけてみました。「これは僕の個人的な意見ですが」と前置きしたうえで、こう答えてくださいました。「“子どもを産み育てた人でなければ、子育て支援の本当のところは分からない”というような風潮があるとすれば、それこそが子育て支援が社会に広がっていかない理由なのではないでしょうか。」
「他の様々な問題についても同様だと思うんですが、“経験者や専門家だけの集まり”になってしまうと、どうしても事態は硬直化してしまう。そうではなくて、もっと多様な人々が関っていかなければ、問題は解決しないのではないかと思うんです。」
「僕たち本部スタッフの中には、もちろん子どものいる人もいますが、学生もいるし、まだ子どものいない人もいます。これから父になり母になる世代が、今子育てに苦労している世代を助ける。助けることによって、これから父になり母になるということを学んでいく。そういう仕組みを作っていきたいんです。」
子育ての問題は、子育てしている当事者だけの問題ではない。少子化対策の必要性が語られることの多い今、駒崎さんのこの指摘は印象に残りました。
取材を終えて
「子育てを経験して、初めて子育て支援活動の必要性が分かった」-このように感じる人が多い中、駒崎さんのように「これから」の方の活動は、とても心強く感じられます。「行政に頼るだけではなく、ただお金を払って便利さだけを買うのではなく、自分たちでアクションを起こせる、ということの象徴になりたい」という「フローレンス」の試みは、病児保育のみならず、他の子育て支援活動にとっても、新たなモデルになり得るのではないでしょうか。
「病児保育とは?」については、こちらから
■取材協力
病児保育のフローレンス
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