防犯/防犯小説

児童買春の罪と罰~ある男の未来が消えた日

「誰にも知られない」「一度だけなら」と、犯罪と知りつつ手を出してしまった男。その代償は計り知れないほど大きいものだった。身近な犯罪が人生をくるわすことがあるという一例。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

出会い系サイト

たった一度だったのに……

たった一度だったのに……

30代前半のその男は公的機関のある部署で係長をやっていた。妻と保育園に通う娘がいた。だが、子どもが出来てからは夫婦の営みは自然となくなっていた。そこで、男は携帯電話の「出会い系」サイトをチェックするようになった。意味の分からない隠語が氾濫していたが、「サポ」は援助交際を、「イチゴー」は「1万5千円」、「ホ別」はホテル代別ということだと次第に分かってきた。

何度か待ち合わせをしたが、離れた場所から女の姿をチェックして、いただけないと思ったら「仕事で急用」と言って断った。慎重に相手を選んでいたのだが、ついにこれは、と思う少女を見つけることができた。待ち合わせの大きなターミナル駅のそばで、合図にしていた無料の情報誌を持った少女に近づいていった。少女に、「キミ、こういうことよくしているの?」と訊ねた。「ううん。今日、初めて」と答えた少女に「そうか」とうなずいて一緒に歩き出した。

ハタチと言っているが年のころは16~17歳か。金と時間をかけて待っただけあるかもしれない。並んで歩きながら、若い子と何を話していいかも分からないので互いに無言のまま、とにかくホテル街に向かった。ためらうこともせず一緒にホテルに入って来たところで、なんとなく(初めてではないだろう)と思った。フロント横の壁に並んだ客室の案内板は半分ほど埋まっている。

空いている部屋を適当に選んで鍵を受け取った。フロントから顔を見られることはなかったので男は安心してエレベーターに乗り込んだ。個室に入ると先にお金を要求された。そのことも少女が度々こうしたことをしているらしいと思うには十分だったが、すでに頭の中は妄想で一杯だった。まず少女にシャワーを使わせ、次いで自分もシャワーを使うと、後は欲望のままに身を任せた……。

その場限りと思っていたが、少女が携帯電話の番号を訊いてきたので、つい教えてしまった。また会えるなら、それもいいと思ったのだ。少女と一緒にホテルを出ると、軽く手を振って別れた。その後しばらくは少女からの電話を待っていたが、結局、かかってはこなかった。年が変わり、仕事も年度末を迎えて多忙になり、新年度になってから時間ができたらまた、と考えていた。
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