退職金の確定申告は基本的に必要ないが、税金が戻ることも
年の途中で退職し再就職をしなかった給与所得者(会社員やパート・アルバイトなど)の場合、確定申告をすると、給与天引きされていた所得税が還付される可能性があることは広く知られています。では退職金にかかる所得税ではどうでしょうか? 退職金は分離課税です。一般に退職金を受け取る時点で「退職所得の受給に関する申告書」を提出し、それをもとに所得税と復興特別所得税、住民税が計算されて源泉徴収されます。これで税金関係は終了しますので確定申告は不要となります。しかし「不要」ということは「所得税と復興特別所得税(=以下「税金」とする)はいただいているので確定申告しなくてもいいですよ」ということであり、「してはいけません」ではありません。確定申告すると、退職金から源泉徴収された税金が還付されるケースもあるのです。その仕組みをみてみましょう。
退職金は退職所得控除のおかげで税金がかなり軽減
分離課税の退職金にかかる税金は、次の通りです。・所得税=(退職金-退職所得控除)×0.5×所得税率-控除額
・復興特別所得税=所得税額×2.1%(平成25年1月1日~令和19年12月31日まで)
・住民税=(退職金-退職所得控除)×0.5×10%
なお、退職所得控除は勤続年数により異なります。
・勤続20年以下の場合=40万円×勤続年数(80万円未満の場合は80万円とする)
・勤続20年超えの場合=800万円+70万円×(勤続年数-20年)
(例)60歳で退職(勤続38年)した人の退職金が2300万円の場合、退職所得控除は2060万円、課税退職所得120万円、所得税+復興特別所得税6万1260円、住民税12万円です。退職所得控除のおかげで税金はかなり軽減されます。計算式としては以下になります。
・退職所得控除=800万円+70万円×(38年-20年)=2060万円
・退職所得=(2300万円-2060万円)×0.5=120万円
・退職金に課税される所得税:120万円×5%=6万円
(課税される所得金額が195万円未満の所得税率は5%)
・退職金に課税される復興特別所得税:6万円×2.1%=1260円
・住民税:120万円×10%=12万円
退職金に対する課税関係はこれで終わりです。しかし、退職した年の所得総額によっては、確定申告すると、退職金から源泉徴収された所得税が還付される可能性があるのです。住民税については、退職所得からの天引き(特別徴収)によって課税が完結することになっていますので還付はありません。
退職金から源泉徴収された税金はいくら戻ってくる?
退職金に対する課税はかなり優遇されているので、税金は数万~数十万円程度。驚くほどの金額ではありませんが、確定申告で還付されるのであれば、ぜひぜひ受けたいものです。例えば、次の条件の人が給与所得だけで確定申告すると5万4900円、退職金を含めると11万422円が還付されます。気になる人は、自分がいくら還付されるのか、確定申告用紙に従って試算することをおすすめします。【条件】
・令和3年5月に退職し再就職はしていない。扶養家族は妻と子ども2人(高校生と大学生)。
・退職金=1500万円、源泉徴収された税金=8万9337円
・5月までの給与収入=265万円、源泉徴収された税金=5万4900円
・給与から天引きされた社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料・雇用保険料)=40万円
・任意継続被保険者保険料=24万5000円
・生命保険料控除および地震保険料控除=11万5000円
結論:退職金を確定申告すると得する人って?
上述した例のように、年間の所得額が少なく、それに対して所得控除(人的控除や社会保険料控除、生命・地震保険料控除など)や税額控除などが多い場合は、退職金を含めて確定申告すると、退職金から源泉徴収された税金(除く住民税)が還付される可能性がきわめて高くなります。税務署の話では、「退職金を確定申告する人はきわめて少ない」。これは、「退職金に関する税金は、退職時点で精算が終わる」という思い込みゆえでしょうか。所得控除や税額控除が多い人は、退職金の確定申告に挑戦してみませんか。
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