災害減免法と雑損控除は、被害を受けた人を応援する税制
空き巣、ひったくり、集中豪雨や台風などの自然災害、害虫による災害などで資産に損害を受けることもあるでしょう。災害減免法と雑損控除は、それらの被害から立ち直ってもらうための応援の制度と言えます。 雑損控除が所得控除なのに対し、災害減免法は税額控除です。控除の方法がまったく異なりますので、どちらが有利か試算する必要があります。雑損控除と災害減免法を比較しながら解説していきましょう。<目次>
災害減免法と雑損控除を選ぶには、「年間所得1000万円」がポイント
年間所得1000万円以下の人は、雑損控除と災害減免法のどちらか1つを選択することができます。年間所得が1000万円を超えると災害減免法は使えません。使えるのは雑損控除だけです。災害減免法は災害による損害が対象、雑損控除は災害以外でも対象に
住宅や家財への被害は、災害減免法と雑損控除のどちらか有利な方を選択することができます。なお盗難や横領による損失は雑損控除だけです。また、詐欺や恐喝による損失は残念ながら対象外です。詐欺は引っかかった人にも落ち度があったということでしょうか……。雑損控除と災害減免法それぞれ対象となる損害の対象は次の通りです。
■災害免除法
災害によって住宅や家財に損害を受け、その損害金額(保険金などにより補てんされる金額を除く)が時価の2分の1以上の場合。
*盗難や横領は対象外
*災害にあった年の所得金額の合計額が1000万円以下のとき
■雑損控除
- 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
- 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
- 害虫などの生物による異常な災害
- 盗難
- 横領
災害減免法と雑損控除を受けることができる「資産」とは
■災害減免法の対象となる資産住宅と家財が対象。その損害額が住宅や家財の価額の2分の1以上の場合、使うことができます。
■雑損控除の対象となる資産
納税者、あるいは納税者と同一生計の控除対象配偶者・扶養親族(=所得金額等が48万円以下)が所有する、生活に通常必要な資産が対象。例えば住宅や家財・衣類・現金などです。また、災害等に関連するやむを得ない支出(詳しくは後述)も対象となります。
生活に通常必要でない資産、例えば別荘や事業用資産や1個(組)が30万円を超える貴金属、書画骨董など、俗に言う贅沢品は雑損控除の対象外です。ただし、その年か翌年に総合課税の譲渡所得があれば、損失をその所得から控除することができます。
災害減免法による所得税の免除・軽減
災害減免法による所得税の免除・軽減額は、下記のように所得金額によって決まります。- 所得金額が500万円以下 ➡ 所得税の額の全額
- 所得が500万円を超え750万円以下 ➡ 所得税の額の2分の1
- 所得が750万円を超え1000万円以下 ➡ 所得税の額の4分の1
雑損控除の計算方法
雑損控除として控除できる金額は、次の1、2のいずれか多い方です。- 差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円
- 損失額+災害関連支出の金額-保険金等により補てんされた金額-総所得金額等×10%
*差引損失額=損失額+災害等に関連したやむを得ない支出の金額-保険金などにより補てんされる金額
控除額が所得金額を超え、1年で控除できない場合には、翌年以降最大3年間(東日本大震災の損害については翌年以降5年間)繰り越して各年の所得金額から控除することができます。
【用語解説】
- 損失額……同じものを今購入するのに必要な価格-使用年度による減価償却分
- 保険金により補てんされた金額……災害などに関して受け取った保険金や損害賠償金など。義援金や災害弔慰金、支援金などは原則、差し引く必要はない
- 災害関連支出の金額……災害により被害を受けた住宅、家財などの取り壊し・除去するための費用や修繕費用、雪おろしや害虫駆除などの家屋の倒壊を防止するための費用など
- 災害等に関連したやむを得ない支出の金額……「災害関連支出の金額」に加え、盗難や横領により損害を受けた資産の原状回復のために支出した金額
東日本大震災における損失の雑損控除に関する国税庁ウェブサイト
雑損控除の計算例
次のケースで、雑損控除額を計算してみましょう。- 損失額……90万円
- 災害関連支出額……40万円
- 保険による補てん額……16万円
- 総所得金額等……500万円
- 差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円=40万円-5万円=35万円
- 損失額+災害関連支出の金額-保険金等により補てんされた金額-総所得金額等×10%=90万円+40万円-16万円-500万円×10%=64万円
1⇒35万円 < 2⇒64万円
よって、雑損控除額は64万円になります。
雑損控除と災害減免法の比較方法
雑損控除と災害減免法の計算方法を比較すると、所得が500万円以下の人は災害減免法を選択した方が得のように感じます。しかし災害減免法は、当年の所得税だけを軽減・免除するものです。損害額が所得金額を超えて1年で控除できない場合は、損害の繰り越しができる雑損控除を選択する方が有利なようです。
雑損控除・災害減免法の申告に必要な書類
雑損控除や災害減免法を受けるためには、通常2月16日~3月15日(還付申告の場合は1月1日から)の間に確定申告を行う必要があります。それぞれ下記の書類をそろえましょう。■災害減免法の場合
- 損失額の明細書のみ
■雑損控除の場合
- 災害関連の支出に関しては領収書、火災は消防署、盗難は警察が発行する被害額届出用の証明書
- 給与所得者は源泉徴収票
- 災害時のやむを得ない支出については領収書
なお、給与所得者や公的年金受給者が一定の要件を満たす損害を受けた場合、「源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予・還付申請書」等を提出すれば源泉徴収税と復興特別所得税の全部または一部について徴収猶予あるいは還付を受けることができます。詳しくは税務署でご確認下さい。
税金の減免制度がある地方自治体も
震災、風水害、火災により被害を受けた場合、地方税や国民健康保険税の減免や納税の猶予を設けている地方自治体(東京都、京都府、大阪府、宇治市、亀岡市、大山崎町ほか)があります。 例えば東京都では、個人事業税や固定資産税・都市計画税、不動産取得税、個人の都民住民税(特別区または市町村が特別区民税または市町村民税を減免した場合)等を減免する制度や、原則1年以内の納税の猶予を認める制度を設けています。また、新型コロナウイルス感染症の影響で納税が困難な人には、すべての都税(自動車税環境性能割、狩猟税等を除く)を1年間猶予、延滞金は全額免除で担保も不要です。詳細は下記サイトでご確認ください。なお申請期限は、令和3年2月1日までです。・新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方に対する猶予制度について(東京都)
このような制度、「活用する必要がない」というのが一番です。しかし災害はいつ起きるかわかりません。防災グッズと同じようにこのような制度を事前に調べておくと、いざというときの再スタートが少しは楽になるかもしれません。
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