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「温泉旅館に3,000円で泊まれる商品」の裏事情(3ページ目)

温泉旅館に3,000円で泊まれる商品が注目を浴びています。その裏側にはどのような業界事情があるのか、解説します。

井門 隆夫

執筆者:井門 隆夫

旅館ガイド

客室ブロックの覇権狙う旅行業、対策なき旅館業

「手数料制の終焉」と「客室ブロックの覇権」。
「客室のみ販売」の裏側には、こうした事情が見え隠れします。その更に裏側には、05年から始まった「人口の減少」問題があります。
人口減少時代を言い換えれば、客数、そして総売上の自然増がない時代。
売上が自然増になって初めて、営業を代行してくれる会社への「手数料制」が成り立ちます。売上が自然減になる時代、旅館は「直販」か「手数料のアップ」かの二者択一を迫られます。それは、いずれも旅行会社との共存を意味しません。そのため、旅行会社も事業モデルを「手数料収入」から「原価・販売格差収入」へとシフトしていかねばならないのです。「原価・販売格差」というのは、売上に関わらず一定の手数料と違い、多く売った者がより安く仕入れられる仕組み。

そこで、「より多く客室を確保したい」。そのためには、どういう手段があるのか、水面下で駆け引き中。
これが、旅行会社、宿泊予約サイト、全ての共通の思いではないでしょうか。
こんな長期レンジの架空話を書けば、旅行会社からは一笑に付されるかもしれません。それでも、間違いなく時代は変化しています。
ところが、こうした動きに対する、最大の難問。
それは、旅館自体での対策ができていないこと。とりわけ、客室をいくらで販売したらよいのか。ホテル業界では、レベニューマネジメントが徹底し、デイリーのRev.PAR(期待客室単価)という予測指標があるからよいものの、室料と食事料の分離もできていない旅館は、エージェントと、その向こうにいる「安さを望む消費者」の言いなりになってしまうおそれがあるのです。
結論を言いましょう。
分けたところで、食事代に比べ、部屋代が安すぎます。もちろん、「湯とお部屋を楽しむ宿」の場合は、オフシーズンの商品ですから仕方ないのかもしれませんが。
旅館には、建物のローンの少ない料亭型(労働集約産業型)と、建物のローンが大きいホテル型(設備産業型)があります。とりわけ昨今は、充実した施設を誇る後者が大多数。そんななか、「部屋代を安く見せかけ、食事で稼ぐ」という販売スタイルでは、損益分岐点を見誤ってしまうおそれがあります。つまり、部屋代が稼げないとローンが返せなくなるぞ、という心配が残るのです。食事も、館内で取らないコンビニ弁当持ち込み客層ばかり取ってしまうおそれがあります(注:持込は保健所の指導で原則できない)。
ただでさえ、払い切れないローンを抱え、事業再生の道を歩む旅館が多いなか、充実した施設・客室には、きちんと対価(標準価格)を設定しましょう。そのうえで、B&B(一泊朝食)とか、素泊まりとかでも、「客室販売だけでもちゃんと利益が出る仕組み」にして欲しいと願っています。もちろん、平日等には割引をお願いします。そして、調理場にも競争の原理を導入し、館内で食べていただける魅力あるメニューを創造して、外で食べるか、内で食べるか、宿泊者の選択に任せたほうが、より支持を得ることができるのではないでしょうか。
人口減少時代、お客様を増やすには「連泊・滞在」で旅行日数を、「リピーター」で旅行回数を、「外国人」で旅行人口を、増やさねばなりません。果たして、現在の「一泊二食付き料金」で、それらが成り立つのか?
こんな難しくない問題を、いつまでも無視しているのではなく、旅館業界として、早く「適正な室料(日毎の柔軟な割引)」と「選択できる料理」の組み合わせ料金にシフトしていって欲しいと思います。
長くなりました。一泊3,000円で温泉旅館に泊まれるプランには、こうした根深い背景が潜んでいるのです。
「情報を開示しない業界」(実際そうなっているがためにお客様が離れている)と言われたくないし、ときどきこうした問題提起を行ってまいりたいと思います。
それでは、また引き続き、All Aboutをお楽しみください!
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