■トスカーナの山奥で3年半放牧されて育つ幻の豚
幻の豚「チンタセネーゼ」を生み出すパオロ・パリージ氏の元には、多くの有名イタリア人シェフが訪れ、この豚を懇願するそうです。
自然豊かなトスカーナの山奥 ほとんど自然と同じ環境でこの豚は育ちます。首の周りに白い帯がある真っ黒なこの豚は、その生産効率の悪さから、一度は絶滅の危機に瀕していました。
普通の豚が180日で出荷できるのに、チンタセネーゼは3年半もの年月を必要とします。えさは昆虫やドングリ・松の実だけ。まさに自然の豚と呼べる逸品です。また、パオロ氏は肉量が多いオスよりも、小柄で味が凝縮したメスを重点的に飼育するため、更に肉の生産量は限られます。
そんなわけですから、日本でこの豚を食べるのは至難の業です。
今回はパオロ氏自身も初めて作ったという、チンタセネーゼのスモークラルド(ラード)を取り寄せました。
ラルド(ラード)は読んで字のごとく豚の背脂です。背脂といっても非常に融点の低いチンタセネーゼですから、照明の白熱電灯の熱でも表面が溶けてきます。
ほんのりと燻蒸の香りを漂わせる脂の固まりに包丁をいれると、怖いほどスーッと切れ、包丁の両面には非常に滑らかな脂が塗られます。付くというよりも塗るという表現が適切なほど、均等に薄く滑らかに脂が包丁にまとわりつきます。
イタリアでは昔から豚の背脂は労働者の素材だったようです。田舎パンに薄切りのラルドを乗せただけで食事にする。まさに貧乏人の食事だったようです。ところが近年、フランスやイタリアの美食家の間でラルドが注目を浴び、このチンタセネーゼのラルドに至っては、まさに幻のラルド状態になっています。
大きな大理石の器の中で、背脂を塩やハーブなどと仕込み熟成させ、それを軽くチップで燻ってあります。薄く切り、指でつまめば、体温で脂が溶け、脂が指先に絡まります。
シンプルにパンに乗せて食べても大変美味しいですが、パンの甘さが気になるので、今回は少し手間をかけ、違う食べ方にしてみました。ラルドはほとんどが脂ですが、人間の味覚には脂に対する限りない欲求があることを、まさにこの素材は証明しています。
いよいよラルドを堪能します>>