ここ数年、大きく動く介護業界
ここ数年の介護業界を振り返ると、大きな出来事がいくつかありました。一つは、2007年6月のコムスン事件。次に、2009年4月の介護報酬改定。そして同じく2009年4月の要介護認定項目、認定基準の変更。さらには、2008年後半からの景気悪化に伴い、雇い止めとなったメーカーの派遣労働者等が多数介護業界に職を求め、慢性求人難だった介護業界が求人倍率が下がるという現象もありました。特別養護老人ホームでの一部医療行為を、介護職に認める方向での検討が進められているのも、業界内では注目の話題です。それぞれについて説明します。
量から質への転換点となったコムスン事件
それまで施設運営の実績がなかったニチイ学館だが、在宅介護事業の実績が評価され、ワタミの介護に競り勝ってコムスンの施設の譲渡先と決まった |
これによりコムスンは事業存続が困難となり、廃業を余儀なくされます。コムスンが手がけていた在宅系サービスはジャパンケアサービス等複数の事業者へ、有料老人ホーム等施設系サービスはニチイ学館へ譲渡。業界地図が大きく塗り替えられました。
このとき、多数の利用者を抱える業界最大手を廃業に追い込んだ厚生労働省の決断には、賛否両論がありました。しかしこのコムスンへの重い処分により、厚生労働省は介護保険のサービスが「量」から「質」の時代に入ったことを明確に示したのです。そういう意味で、介護業界にとっては非常にインパクトのあった事件でした。と同時に、介護保険スタート時の興奮が冷め、世間の関心が薄れていた介護業界に対する注目度を一気に高めた出来事でもありました。
待遇改善効果は小さかった介護報酬アップ改定
コムスン事件で注目を集めるようになった介護業界は、低待遇と離職率の高さについても、マスコミでしばしば取り上げられるようになりました。国会でも、過去2回の改定で切り下げられた介護報酬を引き上げて処遇改善を図るべきだ、との意見が出され、2009年4月の報酬改定では初めてアップ改定となることが2008年末に早々と決定。「介護報酬3%アップにより介護職の待遇を改善」と報道されました。この改定では、それぞれのサービスについての基本の介護報酬には大きな変更はありません。その代わり、介護福祉士有資格者や勤続年数の長い職員が多い事業者、認知症の利用者を多数ケアしている事業者など、介護の質の確保等に向けた努力をしている事業者には、介護報酬に「加算」を付ける形で評価しています。
このため、こうした基準を満たさない事業者は「加算」が付かず、報酬アップの恩恵を受ける事業者は一部に留まりました。加算により収益が改善した事業者も、増収分は赤字補填に消えたというケースが多く、待遇改善につながったのはほんの一握りの事業者だけという事態に。
事業所が加算報酬の申請をすると、利用者は加算分、利用料の自己負担が増えることになります。要介護度別の利用限度額めいっぱいまでサービスを利用していた利用者が、限度額をオーバーしてしまうことからサービスを削減せざるを得なくなるケースが続出。やむを得ず、加算がつかない事業者に変更する利用者もあり、報酬アップの際は利用限度額の引き上げも必要という声も上がりました。