どんなヘビ?
さて、新種となったカプアスミズヘビはどんな特徴を持ったヘビだったのでしょう。カプアスミズヘビEnhydris gyii予想図本物の画像使用の許可をもらっていないもので...画像作成:星野一三雄 |
形態的に非常によく似ているのは、同所的に生息しているE. dorinae(Bloth-Lipped Mud Snake)とE. punctata(Spotted Water Snake)です。
頭は大きく、目と鼻孔は上面に向いていて、体表はなめらかで鱗にはキール(稜線)はない、といった特徴はミズヘビ属に共通でとりたてて特徴的ではありません。
ただし、特に頭部の鱗の配置や頚部の体列鱗数がE. dorinaeとE. punctataの中間的な特徴を示しています。
生体の体色は、体側から背面にかけて一面が黒褐色で、腹面から下顎および頬部にかけて赤褐色に染め分けられています。写真を見ると体側は黒-赤ツートンで比較的ミズヘビ属にしては美しく見えます。また背中の各鱗の一枚一枚の中心に赤い色の小さな斑点があるようで、これが本種の形態的な最大の特徴のようです。
平均的な大きさなどは不明ですが、本種を定義付けるパラタイプ(模式標本)の個体は頭胴長(SVL)が665mm、尾長が101mmで全長(TL)は766mmであるということですから、日本でいうところのジムグリくらいのヘビでしょうか。
生態も何もわかっていないのですが、他のミズヘビ属と似ていると考えられます。
つまり餌は魚類や両生類であり、繁殖は胎生で子ヘビを生むと考えられます。もちろん弱毒を持つ後牙類でもあるでしょう。他のミズヘビと比較するとやや水に対する依存性が弱いようで、陸上でもしっかりとした動きができるようです。
今後の課題
カプアスミズヘビに関して、これから先に調べていったり考えていったりする必要があるのは、どんなことでしょう。もちろん、まったく分かっていない生態や生活史を調べていくのは当然です。同属だからと言って同じ生態とは限りません。
また地理的分布から、どんなことが分かるのかも考察していかなくてはいけません。本種が発見された地域は、熱帯モンスーン気候で雨季と乾季が定期的にやってくる場所です。カラカラに乾燥する乾期の間、このヘビがどこでどんな生活をしているのかはもちろんですが、本種も含めて固有種が多いことから、ボルネオ島の成り立ちなどがわかるかもしれません。
また残念ですが、このような新種の発見は言い換えれば、今まで人間が立ち入らなかった場所に、立ち入ることができるようになった、つまり開発が進んできたという事実も認めなくてはいけません。
というようなことが、今回の論文にも書いてあったと思って下さい。
え?
カメレオンみたいに色が変わる話はどうしたか、って?
実は、これ5ページにわたる論文の最後の5行に触れてました。
要するに2003年に採集した本種の個体を、暗い色をしたバケツの中に入れておいたら、短い時間に「ほとんど白色と言えるような色に変化した」。生きているときに色を変化させるヘビというのは、これまでほとんど聞いたことがない、とても珍しいことである、と。
観賞魚をやっている方なんかだったら、魚なんかが周囲の明るさなどが変わったりすると色が薄くなったり、模様が消えたりなどというのを常日頃から経験しているでしょうから、そんな感じなんでしょう。ミズヘビは、魚みたいな水中生活者ですから、さもありなんかな。
でも、確かにヘビではこういうのは聞いたこともないし、見たこともないです。そういう意味ではかなりワクワクする話ですね。新種記載論文の中の内容ですから、重みもありますし。
ただ、ちょっと「カメレオン」は大げさではないかと...
万一、このヘビがホビーの世界で流通しても、きっと
「周囲の色によって体色を変えることができる、世界で唯一のヘビとして知られる。ただし、飼育下ではあまり行わなくなる...」
というお決まりのオチになるでしょうけど。
こうやって両爬に限らず新種の生き物が発見された、というニュースを耳にするたびに考えることがあります。今まで何万年も人知れず生活していた生き物が、私たちが今こうしている瞬間にも、誰にも発見されずどこかでひっそりと、彼らによる、彼らのための生活をしているのです。そんな同じ時間軸を共有して、私たちも生きているかと思うと、うれしくなってこの時間を本当に大切にしたくなってしまいます。
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