探すコツ
それでは、夏の渓流で彼らの幼生と出会うためには、どんなことに注意をすればいいのでしょう。みなさんが「渓流」という言葉を耳にしたときに、イメージするのはどんな風景でしょう?
おそらく、そのイメージの場所を探してもサンショウウオとは出会えません。
山の中では川は比較的川幅があり水量が多い「本流」とその本流に注ぎ込む小さくて暗い多数の「枝沢」に分かれています。
ハコネ以外の種類は、基本的に「枝沢」に生息しています。
暗くて、水もちょろちょろとしか流れていない、さらに途中で流れが地面に潜ってしまって伏流水になっている、そんな沢です。しかも以下のような条件がそろっている方が見つける確率がアップします。
・標高が500m以上
・落葉広葉樹林の中である
・石が底に埋まっていない(いわゆる浮き石)
・泥がない
・水生昆虫(特にカワゲラ幼虫)が多い
それとなぜか
・ヤマトヌマエビ、アブラハヤ、タカハヤがいる場所にはサンショウウオは少ない
というのも経験上、正しそうです。
こんな様子の沢がポイントなんですが... 写真:びっきとやまどじょう |
ちなみにハコネは本流の方に棲み分けしていますので、比較的見つけやすいと言えます。
ところが...
じゃ、以上のような環境の沢に行けば見つかるかと言えば、そうでないのがサンショウウオ探しの醍醐味です。分布地でもある。沢の環境もいい。そんな沢を見つけていざ探しても、まったくサンショウウオの姿を見ることができないことがほとんどです。
なんとも大変なことに、
「一つの沢の中でも、さらに上流部分、あるいは下流部分にしか生息していない」ことがあります。つまりその沢のたまたま足を踏み入れた場所にはいなくて、あと50m上がった場所に生息しているとか、あるいは下流だったらいたのにねぇ~、とかです。
次に「隣り合った沢でも、生息しているとは限らない」というのも強烈です。つまりその付近に同じような環境の沢(彼らから見たら全然異なった環境なのかもしれませんが)が5本あったら、そのうちの1本にだけ生息している、というまさにロシアンルーレットのようなことが多いのです。
必要な3つのもの
ですから、流水性サンショウウオ探しというのは、まさに「体力」と「根気」そして「勇気」が必要なのです。私のモットーに
「流水性サンショウウオは車から歩いて数分以内で行ける沢には生息しない」
というのがあります。
つまり生息する沢にまで行くためには山道や沢沿いの林道などを歩く覚悟が必要なのです。さらに沢に入ったら、とにかく「いる」と信じて流れの中のサンショウウオを探しながら、沢を「詰める」のですから、体はへとへとになります。なぜか避暑を求めて涼しい沢に入ったのに、汗ダラダラというのが普通なのです。
そして、生息している沢に当たるまで、ひたすらこれを繰り返す「根気」。
こんなことを続けると、次第に
「この沢にはいないだろうなぁ」
などと手を抜くようになってしまいます。
こんなじゃサンショウウオには出会えません。
ですから
「よし、この沢にもきっといなくて俺の努力は『徒労』に終わるだろうが、念のため詰めてみるか」
と自分の「徒労」を恐れない「勇気」が必要なのです。
サンショウウオを求めて幾多の山の道を車で走らせ、沢を横切るたびに様子を見るために車を止め、他の車の邪魔にならないように工夫をして車を止めて、急峻な山道をひたすら歩き、沢の流れが聞こえなくなる不安を抑えながら、藪を分け入って、クモの網に頭を突っ込みながら、刺すでもなく耳元で鬱陶しい羽音を聞かせ続けるブユの群れを追い払いながら、ひたすら沢の中に目を凝らし、石をはぐり、ずぶぬれになりながら滝をよじ登り、収穫がないまま汗まみれになって重い足を引きずりながら沢を下り、次の沢にアタックする。こんなことを繰り返し、精も根も尽き果てたときに、はぐった石の下に小さなサンショウウオの幼生を見つけた感動は、何にも代えることはできません。
ましてや家にいながらPCでネットオークションサイトで適当な値段のサンショウウオの出品を見つけたときのうれしさなどと比較もできません。
ぜひ、今年の夏(来年かな...)は欲しいモノを手に入れる「努力」をしてみませんか?
<関連サイト>
びっきぃとやまどじょう
ベッコウサンショウウオ探索記from じゃぷれっぷ
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