今回は、そんな冬を乗り切る彼らの、ちょっとおもしろいお話と私の「苦言」です。
▼北米のヒバカリ?ガータースネーク
北米大陸に「ガータースネークThamnophis sirtalis parietalis」という無毒のおとなしいヘビがいます。日本で言うところのヤマカガシやヒバカリのような水辺を好むヘビです。全長80cmくらいまでで、特徴的なのは背面の明色縦条です。北米大陸に広く分布していて、美しく飼育しやすいために、両爬愛好家の間では昔から、おなじみのヘビです。
多くの亜種が存在するのですが、その中でもサンフランシスコガーターは有名です。サンフランシスコ近郊の湿地にしか生息しない希少種で、一昨年に、たった一匹のこのヘビの死体が発見されたがために、そこで行われていた工事が18日間も中断され、交通規制が行われたのは記憶に新しいニュースです。
写真:ペポニ |
▼ヘビ界のニューハーフ!?
さて、そんなポピュラーなガータースネークですが、最近になっておもしろい生態が発表されました。それは、このヘビの「オス」が「メス」を装って、あろう事か「オス」を誘うというのです。
ガータースネークは北米大陸に広く分布するので、カナダのような北部に分布する亜種たちは冬の間に冬眠をします。古くから、ガータースネークは数千匹の大集団で冬眠を行うことが知られていました。ところが、その集団の中に「メスのフェロモンを分泌するオス」個体、つまり「メスを装うオス」個体がいて、「多くのオス個体」がそのフェロモンに誘われて、「メスを装うオス」個体に求愛を行っていることがわかりました。言うなれば「美しい女性と思ってアプローチをしたら、実は男だった!!」などと、まるでマンガの世界のできごとようなことが行われていたのです。
なぜ彼(彼女!?)らはこんなことをするのでしょう。
一昨年に発表された論文によると、次の二点が理由のようです。
◇体温を上昇させるため
冬眠後に彼らは繁殖行動に移るのですが、このときに体温が高い方が活性も高くなり繁殖に有利になります。
そこで「オスがメスのフェロモン」を出して、「他のオス」を誘い、文字通り「熱い抱擁」をさせるわけです。繁殖行動を行い、抱擁してくるオス個体の体温は非常に高くなっているらしく、見事に「メスを装ったオス」は熱を奪って、体温を上げることができるそうです。
◇身を守るため
冬眠明けの彼らの大集団は、彼らを補食する天敵(カラスなど)から見れば「山盛りのごちそう」です。冬眠明けの彼らはすぐに敵に狙われます。そこで「メスを装ったオス」個体は、多くのオスに抱擁され「ダンゴ」状態の真ん中に位置させることで天敵からの攻撃から身を守っているのではないか、と考えられます。
何にしても、自然の中で生き抜こうとする彼らの工夫とエネルギーには驚かされます。彼らのすべての行動に、何らかの大きな意味があることを実感させられますよね。