黒猫が登場する昔話
悪魔の化身、魔女の使い魔、と昔話に登場することが多い黒猫ですが、悪いイメージだけではありません。代表的なものは「長靴をはいた猫」でしょう。
※「長靴をはいた猫」の猫は黒猫、とされている説が多いです。
『ネコ・ねこ・猫-世界中のネコの昔ばなし』平凡社刊に掲載されている、あまり知られていない黒猫が登場する昔話のあらすじを2編、ご紹介します。
「悪魔の黒猫」アイルランドJones,Mary Eirwen : Folk Tales of Ireland. Oxford,1949.
ひとり暮らしのおばあさんが炉端で糸を紡いでいると、台所で「ニヤオ」という声がしました。そこに近所の若い娘キチーがやってきて、一緒に声の主を捜しますが、影は映っているのに猫の姿は見えません。きれいなバグパイプの音が流れてきて、それを聞いたふたりは心がうきうきして、踊り出さずにはいられなくなりました。壁の上のネコの影はまるで指揮をとっているかのように、尻尾をユラユラ振っています。このままでは、ぶっ倒れてしまう、と思ったおばあさんは、急いで台所に魚を取りに行き、床に置くと壁の猫の影が消えて、大きな黒い猫が魚に飛びかかってガツガツ食べ始めました。
おばあさんは、暖炉の火消し棒を火であぶり、猫の背中めがけて投げつけましたが、猫はビクリともせず振り向いてふたりを恐ろしい目でにらみつけます。「助けて!」という悲鳴を聞いた通りがかりの船乗りのミッキーが飛び込んできて、太い棍棒を猫めがけて振り上げましたが、棍棒はぽきりと二つに折れてしまい、猫はうなり声を上げてミッキーに飛びかかって、鋭い爪で引っ掻きました。
ミッキーは血まみれになって牧師のところに飛んで行きました。牧師が聖水を持ってきて、お祈りをあげながら黒猫に近付き、さっと聖水を振りかると「ギャァー!」というものすごい声を上げて、もうもうと煙が立ち上り、その中で大きな猫がじりじり焼け死んでいき、後にはひとかたまりの灰が残りました。
「やっぱり悪魔だったんだわ!」とおばあさんがいい、みんなもそう思いました。みんなで乾杯しキチーはミッキーの手当をしました。
まもなく、ふたりは結婚しました。
「黒猫だって、まんざら、縁起が悪いもんじゃないよ。こんどのように縁結びのキューピット役だってしてくれるんだから」と、ミッキーは云いました。
「黒猫の大手柄」フランス
Carpenter, Frances : Wonder Tales of Dogs and Cats. New York, 1955.
母親を早くに亡くしたマリーという美しい貴族の娘がいました。父親が再婚し、邪険な心の狭い継母と、ねたみやのひがみっぽい連れ子のルイズがやってきて一緒に暮らすようになり、マリーは賢い黒猫と一緒にお城の塔の中の自分の部屋に綴じ込むことが多くなってしまいました。
王子様が花嫁を捜しにやってきました。マリーが選ばれるに違いない、と思った継母は魔女に相談をします。すると魔女は「マリーを選ばせておいて、結婚式の日になったら、ルイズにマリーのベールをかぶせて、式を挙げさせよう。ただし、マリーの黒猫にルイズの前を横切らせてはいけない」と知恵をつけます。
王子は一目でマリーを気に入り、「結婚式の日に、僕の花嫁が履く靴です」と一足の金色の靴を渡しました。
結婚式の日、マリーは部屋に閉じこめられて出て行くことができません。王子の馬車が迎えに来て、ベールをかぶったルイズが、約束の靴を履こうとしましたが、靴が足に合いません。花嫁はやっとのことで、つま先を押し込み馬車に乗って教会へ。教会について馬車から降りようとすると、黒猫がサッと前を横切り「みにくい娘!みにくい娘!きれいな娘はお城の塔の中で泣いています!」と叫びました。王子がベールを取ってみると、ルイズが…。
もう一度魔女に相談した継母は、マリーを遠くにやってしまおうと黒猫と共に小舟に乗せてしまいました。
湖の真ん中の誰も住んでいない小さな島に流れ着いたマリー。小舟は流されてしまったので、岸に浮かんでいた丸太に飛び乗って、黒猫は食べ物を探しに行きました。黒猫は御殿に行き、ウズラの丸焼きをさらって逃げました。コックにその話を聞いた王子は、次の朝やってきた黒猫から湖の中の小島にマリーがいることを聞き、すぐに船を出してマリーを迎えに行き、めでたくふたりは結婚。
お祝いの席に何食わぬ顔で列席していた魔女を見つけた黒猫は魔女と対決して、やっつけました。
「この大手柄にどんな褒美を?」と問われた黒猫は「わたしの背中を王子様の剣で、ひと思いにさいてください」と頼みました。
そんなひどいことを。。。と躊躇う王子に黒猫は真剣な顔で何度も頼むので、王子が背中を剣で裂くと、中から美しい若者が現れました。
悪い魔女によって、何年も猫の姿に変えられていた呪縛が解けたのです。
反省したルイズは、その後マリーのとても良い妹になり、黒猫だった勇敢な若者と結婚しました。
人なつっこい黒猫さんが多いです |
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■参考文献
「猫のことなら」バーバラ・ホーランド 心交社 ISBN4-88302-102-5
「人間の好みがネコを変えた」N.B.トッド 日経サイエンス社 ISBN4-532-06445-7
「ネコ・ねこ・猫-世界中のネコの昔ばなし」訳編:光吉夏弥 平凡社 ISBN4-582-54216-6
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