新そばが出てくるこの季節、紅葉見物を兼ねて、信州の蕎麦集落を訪ねてみるのはいかがでしょうか?

今回は3回にわけてお伝えする連載の第1回目。信州蕎麦の歴史、そして、北信の蕎麦集落をいくつかご紹介します。

信州は、なぜ蕎麦王国なのか?まずはその歴史的背景を知る

とみくら
人気の蕎麦集落である富倉集落。のどかな田舎で味わう蕎麦は旅気分をもりあげてくれるはず
蕎麦王国として全国に名をはせる信州。風土が蕎麦栽培に適していたとよく言われるが、それは裏をかえせば「蕎麦しか育たない土地だった」ということ。

深い山々に囲まれた標高の高い土地の多くは、米の育たない、いわゆる「がれ地」。そんな場所に適した作物が、「標高が高く」「水ができるだけあたらないような」場所でしか育たない蕎麦だった。つまり、人々にとって、蕎麦は生活の糧であり、生命の源だったのだ。信州には郷土蕎麦が多種多数ある。それらは観光客向けに作られた創作料理ではない。その土地土地の風土、風習にあわせ、さまざまな形に姿を変えた信州の食文化そのもの。その素朴な味こそが魅力なのである。今回は、そんな信州の郷土蕎麦を訪ねてみた。長い、長い旅のお話しになるので、今回は趣向を変えて3回連載にしてみたいと思う。町はずいぶんと変わり、「集落」らしい場所ばかりではないが、どこも「信州人にとっての蕎麦の存在」を考えさせてくれる場所ばかりだ。

上信越自動車道を北上し北信州の郷土蕎麦に舌鼓をうつ

はやそば
「岩本そば屋」の「はやそば」。いわゆる「そば切り」ではないところにまずは驚くだろう
まず訪れたのは、上信越自動車道信州中野インターからほど近い、山ノ内町の須賀川地区。長野県の無形文化財にも指定されている「はやそば」がここにある。今回お邪魔したのは、「岩本そば屋」というお店だ。

この「はやそば」は、大根の入ったゆるいそばがきのようなもので、農作業の合間に「早く」食べるために作られていたらしい。もちろん、蕎麦切りもあり、これはつなぎにオヤマボクチという植物を使った少し固めの歯ごたえが特徴。同じオヤマボクチをつなぎに使った郷土蕎麦を楽しめる富倉集落はここから車で30分ほどの距離。富倉集落には4軒の蕎麦屋があるが、うち3軒は、地元のおばあちゃんが自宅を開放しているような店構え。どちらかと言うと、田舎のおばあちゃんちに遊びに行くような感覚が味わえる。今回はあえて、集落で経営する「かじか亭」を訪れた。気軽にささっと立ち寄るのであればこちらも悪くない。この周辺ではオヤマボクチをつなぎに使っているようだが、以前、こんな話を聞いたことがある。「小麦が穫れるならうどんを作るよ。小麦も育たない、蕎麦しか育たないような地域だから“蕎麦”なんだ」だからオヤマボクチを使ったり、山芋を使ったりする。小麦は“豊かな地域”のつなぎだと言うのだ。なるほど。だんだんと信州の蕎麦事情がわかってきたところで、そろそろ旅は終盤。

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