ややこしい「歴史地区」

ポタラ宮
中国の世界遺産「ラサのポタラ宮歴史地区」に登録されているポタラ宮。現在インドに亡命中のダライ・ラマの住まい。©牧哲雄
やっかいなことに、日本ユネスコ協会の世界遺産リストで「歴史地区」と訳されていても、英語では「Historic Centre」や「Historic Centres」の他に、「Historic Site」「Historic District」「Historic Area」「Historic Town」「Historic Ensemble」の正式名称を持つ物件もある。

同時に、これらの言葉を持っているものがすべて「歴史地区」と訳されているかというとそうでもなく、場合によっては「歴史遺産群」「歴史地域」「歴史的街並み」などの言葉になっていたりと、一定しない。

これらの言葉の厳密な定義は見たことがないので正直よくわからない。ただ、なんとなくだが「Centre」は大聖堂や教会を中心とした場所、「Town」はそうではない街並みといった漠然とした区別はありそうだ。

キリスト教圏では街の中心に大聖堂(カテドラル)を建て、大聖堂の前に広場をおき、ここから街を展開する。この中央広場はセントロ、セントラル・パーク、パルケ・セントラル、ソカロ、プラザ・デ・アルマスなどと呼ばれるわけだが、「Centre」はこのような街並みを指していると思われる。

たとえば「ラサのポタラ宮歴史地区」は「Historic Ensemble of the Potala Palace, Lhasa」の訳だが、ラサは地区ではなく、宮殿や寺が3つ別々に登録されているし、大聖堂も教会もないので「歴史地区」というより「歴史遺産群」なのではないかと思ってしまう。ただ、歴史遺産群とする場合、ラサのポタラ宮はひとつの建物を指すので「ラサのポタラ宮歴史遺産群」では少し変で、とすると「ラサの歴史遺産群」がいいように思うが、そうすると英語の「of the Potala Palace」が訳せていないことになる。では「ラサのポタラ宮と歴史遺産群」か……うーん、歴史地区でいいのかなぁ、前には広場が広がってるし。難しい。

いずれにせよ、こうしたことから世界遺産への理解がより深まれば、それもまたいいことだと思う。なお、同じように地域を登録している概念でよく登場する言葉に「旧市街」や「古都」があるが、これらについてはまたいずれ本シリーズで解説する。