世界遺産/アフリカ・オセアニアの世界遺産

セレンゲティ国立公園/タンザニア

マラ川を前に立ち尽くす数百万頭のヌー。川にはワニ、対岸にはライオンやハイエナ、上空にはハゲワシが待ち構えるなか、ついに大移動を開始する! 今回は世界で一番有名なサバンナ、タンザニアの世界遺産「セレンゲティ国立公園」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

野生の王国セレンゲティで生命に出会う

果てしない平原を覆い尽す数百万頭のヌーの群れ。秋のある日、ヌーたちはワニたちがひしめくマラ川を前に立ち止まり、勇気ある1頭のダイビングをきっかけに、大移動を開始する。自然界最大のビッグイベント、グレイト・ミグレーション。

今回はアフリカでもっとも有名なサバンナ、タンザニアの世界遺産「セレンゲティ国立公園」を紹介する。

マラ川の合戦――肉食動物VS草食動物

大地を覆うヌー。総数は数百万ともいわれる。シマウマやガゼル、エランドなどの草食動物も一緒に移動する ©リゾートアンドサファリ

大地を覆うヌー。総数は数百万ともいわれる ©リゾートアンドサファリ

川には最大で体長7mにもなる世界最強のワニ、ナイルワニ。向こう岸には百獣の王ライオンに、ライオン以上の狩りの名手であるサバンナの掃除人ハイエナ。その輪を逃れたとしても待ち構えるのは時速100km以上の脚を持つ世界最速の陸上動物チーター。そしてその様子を上空から見つめるハゲワシやハゲコウ。

マラ川を集団で渡るヌー。1頭の勇気あるヌーのダイブによって、ミグレーションがはじまる

マラ川を集団で渡るヌー

年に2度、プレデター(捕食者)たちはタンザニアとケニア国境に近いマラ川に集まり、包囲網を敷いて草食動物たちをいまかいまかと待ち受ける。

一方獲物となるヌーやシマウマなどの草食動物たちは、ケニアのマサイマラ国立公園やその周辺から続々と集結し、幅約100mのマラ川を挟み、じっとその瞬間を待つ。最終的にその数100万~300万にもなる集団が、対岸に広がる雨季のセレンゲティを目指す。

肉食動物VS草食動物――まるで全面戦争を思わせるような緊張感がサバンナに張り詰める。

 

セレンゲティの名物、大移動=グレイト・ミグレーション

堤を駆け上がるヌーの群れ。伝説では、新しい動物のアイデアがなくなった神様が、ウシの角、ヤギの髭、ウマのたてがみ、ウマの尻尾を合わせてヌーを創ったといわれている

堤を駆け上がるヌーの群れ。伝説では、新しい動物のアイデアがなくなった神様が、ウシの角、ヤギの髭、ウマのたてがみ、ウマの尻尾を合わせてヌーを創ったといわれている

物語は1頭の勇気あるヌーによって突如動き出す。

ワニがいるかもしれない。深さもわからない。そんなマラ川に1頭のヌーがダイブすると、堰を切ったようにヌーたちの大移動がはじまる。グレイト・ミグレーションだ。

獲物を探すライオンのメス

獲物を探すライオンのメス

ヌーやシマウマたちは先頭のヌーが渡り終えたルートを正確にたどり、列になって川を渡る。川幅約100mを全力で駆け抜けるうち、深みにはまって溺れるもの、力尽きて休むものにワニがいっせいに襲い掛かる。

川を渡り切り、高い堤を駆け上がると、今度はライオンやハイエナ、チーター、ジャッカルたちとの戦いだ。身体の大きさで勝るヌーたちは集団で壁を作り、プレデターたちの攻撃をかわす。群れの動きについていけないもの、弱いものが、サバンナではまず犠牲になる。

 

弱肉強食。セレンゲティには自然界の掟そのままの景色が広がっている。
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