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嫉妬は最大の愛 『アマデウス』

天才音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを毒殺したと噂されていた、宮廷音楽家アントニオ・サリエリ。才能に焦がれた平凡な音楽家が、晩年得た答えとは?

執筆者:尾崎 佳加


『アマデウス ディレクターズカット スペシャル・エディション』
自殺を図り、精神病院へ運ばれた老人、アントニオ・サリエリ。かつて皇帝ヨゼフ二世に仕えていた宮廷音楽家は、病床を訪れた神父に衝撃の告白を始めます。

若かりし頃、サリエリの前に突如として現れた天才音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。3歳でピアノに目覚め、わずか14歳でローマ法王にその才能を称えられた神童の出現に、サリエリは自分の平凡な才能を呪うようになります。自分よりもモーツァルトに才能を与えた神を憎み、卑劣な手段でモーツァルトを精神的にも経済的にも追い詰めるサリエリ。彼の策略により、モーツァルトの華やかだった人生は一転し、病気と貧困に見舞われ、35歳という若さで非業の死を遂げます。

誰よりもモーツァルトの才能を妬んだサリエリ。しかし、彼はまた、誰よりもモーツァルトの音楽を愛した一流の音楽家でもありました。ゆえに晩年は贖罪の念に苦しみ、生きながらにして地獄をみることとなるのです。

私は凡庸なる者の守り神だ

モーツァルトとの一連を告白し終えたサリエリは、神父に言います。

あんたの慈悲深き神は 愛する者の命を奪い
凡庸なる人間には わずかな栄光も与えはしなかった

Your merciful God.... He destroyed his own beloved,
rather than let a mediocrity, share in the smallest part of his glory.

あんたも同じだよ この世の凡庸なる者の一人
私はその頂上に立つ 凡庸なる者の守り神だ

I will speak for you, Father. I will speak all the mediocrities in the world.
I am their champion. I am their patron saint.

時代と共に存在が薄れてゆくサリエリの音楽に対し、時を経てなお愛され続けるモーツァルトの音楽。天才に翻弄され続けたサリエリが、生涯をかけて学んだこと。それは、自分は神に見放された平凡な人間にすぎないということでした。

2006年は、モーツァルトの生誕250周年に当たります。映画『アマデウス』にヒントを与えた、サリエリによるモーツァルト毒殺説は、未だ立証されることなく今日まで語り継がれています。モーツァルトが父と交わした手紙の中には、サリエリの悪口を書いたものもあるようですが、二人は対立していなかったという説もあり、真相は迷宮入りです。映画では、最もモーツァルトを理解し、執着していたサリエリ。嫉妬は最大の愛であり、天才に向けられた憎しみは、サリエリなりの賞賛なのかもしれません。

【作品データ】
邦題:アマデウス(1984)
原題:Amadeus (1984)
ジャンル:ドラマ / 音楽
配給:松竹富士
監督:Milos Forman ミロス・フォアマン
キャスト:F. Murray Abraham F・マーリー・エイブラハム(サリエリ)
Tom Hulce トム・ハルス(モーツァルト)他
脚本・原作:Peter Shaffer ピーター・シェーファー
製作:Saul Zaentz ソウル・ゼインツ
URL:日本公式サイト / 米国オフィシャルサイト
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