癒しの旅/東京の癒しの旅

大正モダンの非公開邸宅で癒しのひとときを(2ページ目)

今回は、知る人ぞ知る都内の穴場スポットをご紹介。期間限定、週末だけ開く門の先に、大正モダンの佇まいと、むせ返るような若々しい緑が待っている、素敵な場所ですよ。

執筆者:本多 美也子

渋沢栄一が晩年を過ごしたお気に入りの建物、2棟が重要文化財に指定されました。2つの趣の異なった建物をご紹介しましょう。

賓客をもてなした洋風茶室・晩香廬

周囲の木々に隠れるようにして建つ晩香廬(ばんこうろ)は、渋沢栄一の喜寿のお祝いに、現在の清水建設が贈った洋風茶室。1917(大正6)年の竣工の木造平屋建て、わずか一室のみ(付属の配膳室はあり)の建物ですが、丈夫な栗材を用いて丹念に作られ、重厚だけれど、温かみを感じさせます。

晩香廬の佇まい。周囲の緑も美しい。


晩香廬はインドの詩人タゴールなど、内外の賓客を迎えるレセプション・ルームとして使用されました。
その名は、栄一の漢詩文「菊花晩節香」からとったとも、父親の雅号である「晩香」からとも、また英語のバンガローをもじったのではないかとも、いわれています。

暖炉・薪入れ・火鉢などの調度品、机・椅子などの家具も、デザインされた建物との調和が取れたもので、大正時代のセンスの良さを覗けます。暖炉にしつらえられた幾何学模様、小窓のステンドグラス、ひとつずつ異なるデザインの電灯のシェード、テーブルや椅子など、今から90年以上も前のデザインとは思えないほど斬新です。

また、窓辺から見る庭の緑もすばらしく、その居心地はもてなしのよいお宿の図書室といった雰囲気。ここでコーヒーを飲みたいなあ、と思わずお願いしたくなる空間です。


技術とアートを詰め込んだ洋館・青淵文庫

晩香廬とは打って変わって、鉄筋コンクリートにレンガ壁の瀟洒な洋館・青淵文庫(せいえんぶんこ)。1925(大正14)年竣工のこの建物は渋沢栄一の80歳の祝いと、男爵から子爵に昇格した祝いを兼ねて、寄贈されたもの。2階は栄一の書庫として、1階は閲覧室、また接客の場としても使用されました。

渋沢栄一は論語関係の書籍を収集していて、それを読むための建物だったようですが、関東大震災によって、書籍類は焼失し、実際には、台湾総統の蒋介石など、賓客の接待に使用されたといわれています。

青淵文庫は伊豆の川奈ホテルや、軽井沢の万平ホテルを思い起こさせる瀟洒な雰囲気。

1階の閲覧室には、渋沢家の家紋「丸に違い柏」に因んだ、柏の葉をデザインしたステンドグラスやタイルが施され、室内は光を多く取り込んだ明るい雰囲気。室内は晩香廬の暖炉とはことなり、当時の最新式の電熱器による暖房装置が備えられていました。
前面の芝生の庭を見渡せる開放感とあいまって、クラシックホテルを訪れたような、セレブ感あふれる佇まいを楽しめます。

文庫内に置かれたソファには腰掛けることもできて、長寿だった渋沢翁の座った椅子に腰掛けると、係の方に「長生きできるかも」と声をかけられたりします。


2棟とも週末だけの特別公開のため、係の方が何人も常駐しています。そのため、さまざまな解説をしてくれたり、質問に答えてもいただけますので、ゆっくりと建物鑑賞を楽しめます。

次ページでは、この知られざる名建築が現代に残った謎、そして、渋沢邸の歴史、見学の案内などをご紹介します。
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