「事件」のあらまし
事の発端は、11月4日付けで件の日本通訳協会ホームページ上に掲載された「受験生の皆様へ」という短い文章と受験生に郵送された謝罪はがき。協会の閉鎖と直前に迫った検定試験の中止という、非常にショッキングな内容ながら文章自体は短く、受験者などへの影響の大きさに比べると、ある意味「淡白」とも思える内容。閉鎖の理由も「このたび、 今般の経済不況の中で必要な金融支援も受けられず」、と漠然した表現のみです。
もっとも協会側によれば、今後の検定試験の方向性や既に受領済みの受験料の扱いなどについて、現在業界各社と協議中とのことですから、露出できる情報に限りがあるのは仕方ないのかもしれません。
しかも、遡ることわずか10日前の10月24日には「秋期試験受験票発送のお知らせ」が掲載されていますから、協会側としても、存続のためにギリギリまで奔走しての閉鎖だった可能性は考えられます。
しかし、いずれにしても直近の試験が5日後の11月9日に迫っていた状況での発表としては、あまりにあっさりしすぎ、無責任という感は否めないのではないでしょうか。
閉鎖した「日本通訳協会」とは?
名称からしてNPOか何かを連想しますが、実は1973年創業の株式会社。不思議なことに、ホームページのどこにも協会の概要についての記載がないのではっきりしたことはわかりません(ガイドがチェックしたのは、閉鎖発表後。本来はあった記載を発表後削除したのか、最初からなかったのかは判別がつきませんが、仮に最初からなかったのだとしたら、試験実施機関の公式サイトとしては、この時点で「問題」と言えます)。
英語や中国語の「通訳技能検定」(通検)を全国で年2回実施、合格者を「通訳士」として認定するほか、中国各地の大学に日本語教師を派遣する育成プログラムも開講。今回の閉鎖に伴い、このプログラムがどうなるかについては、現時点では触れられていません。
今後、懸念される問題
■受験料は返還されるのか?当然、最も気になるのは、11月9日に予定されたいた検定試験のために納入済みの受験料の行方です。協会側は「努力したい」とはしているものの、現在は新たな連絡先すら公開されていない状況。
発表されているとおり、経営上の問題が閉鎖の理由だとしたら、「返還」への道は決して楽観できるものではないでしょう。
しかし、本当に経営上の問題であるなら尚のこと、ある程度の予兆はあったはず。何事もないように検定試験の受験申込を受け付け、閉鎖発表のわずか10日前には受験票発送を行っているというのは、どうにも納得がいきません。
■これまでの合格実績はどうなるのか?
サイトでは、「34年間に通算12万9544名が受験し、3万8304名が合格」とされている「通訳技能検定」。これが本当なら、今回、協会が閉鎖し、このまま検定試験が中止されることにより、過去の合格者が被る影響は避けられません。
もちろん、検定試験に「合格した」という事実はなくなりませんが、それを認定した機関が消滅、検定試験そのものが無くなるわけですから、事実上、その合格実績も意味を成さなくなってしまいます。
つまり、今回の「事件」は、直近の検定試験の受験予定者だけでなく、これまでの受験者たちが、この検定試験のために費やしたあらゆるコスト、努力までもを無にしてしまうのです。
実は「通訳技能検定」と聞いて、最初にガイドが思い浮かべたのが、この分野唯一の国家資格である「通訳案内士(通訳ガイド)試験」でした。
もちろん、ご説明してきたとおり、今回中止になった「通訳技能検定」は、通訳ガイド試験とはまったく無関係の別物。
しかし、「通訳技能検定」の公式サイトには「わが国唯一の通訳士認定試験」と謳ってあり、人によっては混同してしまうこともあったのではないでしょうか。
この例だけでなく、似たような資格や検定が並ぶ現状の中で、「本当に」信頼できる試験を見抜くにはどうしたら良いのか。
当「仕事に活かせる資格」でも、このことを大切に受け止め、発信していきたいと思っています。
※参考リンク
その資格、大丈夫?消える資格の条件(All About[仕事に活かせる資格])