厚労省発・医学部定員増案は、医師ブームを生むのか?
小児科、産科医不足や地域による医療格差など、医療を巡る様々な問題が取りざたされている昨今ですが、実際のところ日本の医師の総数は人口千人あたり2.1人(06年)、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均を下回る「医師不足」となっています。そんな中、厚生労働省「安心と希望の医療確保ビジョン具体化検討会」がその提言の中で、医師養成拡大案を発表。具体的には、現在約7800人の医学部定員枠を1.5倍の1万2千人程度まで増やすことを提案しています。これが実現すれば、20年後には現在のOECD並みの水準にまで達する試算だとか。
ところで、官が旗振り役となって特定の職業人を育成、ということで思い出すのが、2002年から始まった司法試験合格者数増加のための動き。法科大学院が新設され、新司法試験が導入されたのは記憶に新しいところです。
鳴り物入りで始まった司法制度改革もフタをあけてみれば、法科大学院間の格差や、司法修習後の卒業試験の不合格者の増加、修習生の就職難など、思わぬ課題が山積というのが実情。同じように官主導で始まる医師養成の行方が気になるのも当然でしょう。
医師といえば、司法試験合格に匹敵するほど「なるのが難しい」イメージが定着している職業。しかし、その一方で、実は「医師国家試験」自体は合格率9割超という「受かりやすい」資格試験でもあります。
つまり、「医学部進学」の難しさと入学後の学習のハードさが、医師という職業のハードルを上げているということ。今回の「医学部定員枠の拡大」案は、いわば「入り口」の部分の門戸を広げる格好となるわけで、その点は司法試験のケースと若干異なると言って良いでしょう。
むしろ問題は、定員増に見合った教員の増員、教育体制の充実を図れるのか、定員増が学生の質の低下を招かないかということ。国家試験自体のハードルが低いだけに、いたずらに定員数を増やすことで、人数は増えたけれど質も落ちた、ということでは困りますよね。
いずれにしても、具体的な動きはまだまだこれから。大いに注目していきましょう。