「通訳者」というお仕事について
Q:通訳者としてのお仕事をされて、充実感を得られるのはどんなときですか?まず、会議通訳の場合は、日韓双方の参加者が満足して帰られる時です。皆さんの笑顔をみているだけで、こちらも自然と笑顔になります。同時通訳の時はブースまでわざわざねぎらいに来てくれる方もいらっしゃいます。事前準備も大変ですし、当日のプレッシャーもありますが、そういう時はお役に立てて本当によかったと思いますし、疲れも吹き飛びます。
芸能通訳の場合は、イベント等でご本人とファンの皆さんがひとつになっているのを感じる瞬間に何とも言えない充実感を覚えます。ステージ上からもファンの皆さんの表情はとてもよく見えますし、熱気も肌で感じられるんですよ。
通訳をするところは会議室だけでなく工場や現場など様々。写真は、消防・救助器具について逐次通訳する場面 |
時間がなかったり真剣な討議が続いている時など、2~3時間休憩なしで会議が続いたりすることがあって、そうするとトイレにも行けず、頭がフル回転の時間が長くなりすぎて自分の頭のてっぺんから煙が出ているような錯覚に陥ったりします(笑)。また視察等で工場や現場に行くこともあります。そういうときは防塵服を着て一緒に入ったり、ヘルメットをかぶって薄暗い中で通訳したりします。たくさん見て回った後、会議やプレゼンテーションを行うことも多々あるので、体力勝負だなと思います。体力が続かないと集中力も続かないからです。
また毎回テーマが違うので、毎回予習が大変です。会議の場合はエージェントが送付してくれる資料を読み込んで、用語チェックや背景チェックをして、専門家に少しでも近づけるようできるだけ努力します。
芸能通訳では、相手が俳優さんの場合はこれまでのご本人の出演作品をチェックし、邦題と韓国語原題が違う場合がよくあるのでリスト化したり、役名やあらすじもチェックします。時間があるときはDVDを借りてきて、ドラマや映画を直接見ることもあります。歌手の場合はご本人の出演したテレビ番組のチェック、これまでの音楽活動、すなわちアルバムの名前、タイトル曲を必ずチェックします。そしてネットで実際に聴いたり、音源を送っていただいて聴きます。自分で購入して聴く時もあります。
ユーモアセンスに溢れる韓流スター。写真は、韓国の人気歌手グループ「神話(SHINHWA)」のヘソンさんファンミーティングでの通訳風景(写真提供:GOOD ENTERTAINMENT JAPAN) |
韓国のアイドルグループのレコーディングのお手伝いをしていた時のことです。サッカーの日韓戦が行われている日でした。試合は決着がつかず、最後はPK戦になったのですが、ちょうど休憩時間だったのでレコーディングスタジオのテレビで一緒に観戦したのです。メンバーたちは韓国人ですから韓国がゴールを決めると大喜びだけれども、日本人スタッフたちはガッカリ。そんな明暗がなんだかおかしくて……。結局、その日は日本が負けてしまいました。
それからある歌手のイベントの中で、テコンドーを披露するというコーナーがありました。打ち合わせの時、どのテコンドーの技が出るのか分からないので、テコンドーの技の写真と日韓双方の技の名前が出ているサイトを紙に印刷して持参していきました。するとご本人が「こんなページがあるんだー。へぇ。」とまじまじと見た後で、私に向かって突然真顔で「ちょっとやってみてください」と(笑)。韓流スターはユーモアの機転がきく人が多いと思います。だからスターなのでしょう。
Q:通訳者に向いているのは、ズバリどんな性格の持ち主だと思いますか?
社交的で人当たりが良く、好奇心があって、サービス精神がある人だと思います。そしていろんな人と出会うことに喜びを感じられる人です。通訳者は通訳というサービスを提供するお客様が毎回異なりますので、それがストレスになってしまうと通訳そのものが苦痛になってしまうと思います。
次ページでは、嵯峨山さんが手がけた訳書や、K-POP対訳のお話しなどを、伺いたいと思います。嵯峨山さんが対訳を付けた、十数年前に聞いた曲とは!?