「西遊記」の原作、読んでみたことありますか?
西遊記の原作
親しまれている割には、「西遊記」の原作を通して読んだことのある人は非常に少なく、断片的な知識しかない…ということで、前回はザッと「西遊記」という物語の全貌についてご紹介しました。
●「西遊記」ホントの話
今回は、まだ原作を読んだことのないあなたのために(?!)原作の中から、三蔵法師一行(お師匠さん・孫悟空・猪八戒・沙悟浄)に関する知られざる意外なエピソードや、映像やドラマでは省略・アレンジされがちな部分のホントの話を少しだけお届けします。
「西遊記」という壮大なストーリーの中の一部を楽しんでみてください!
三蔵法師の弟子3人、弟子になったホントの順番は?
舞台や映像では省略されたりアレンジされていることの多い部分です。限られた時間で「西遊記」の面白いエッセンスを表現しようと思ったら、あまり出会いのエピソードを細かく描いていられないからかもしれませんね。弟子入りの本当の順番は孫悟空→猪八戒→沙悟浄です。
結局3人が弟子になったんだから、弟子になった順番なんてどうだっていいのでは…?と思われるかもしれませんが、原作ではその後のエピソード、人間関係に少なからぬ影響を与えています。
三蔵法師と悟空が立ち寄った高老荘という村。そこで娘が妖怪にさらわれて村人が困っている…ということで、妖怪退治を請け負った悟空。その「妖怪」が猪八戒でした。
すったもんだの挙句、猪八戒が2番弟子として迎え入れられたわけですが、悟空と八戒の人間(妖怪?)関係は最初ギクシャクしていました。やはり、八戒にしてみれば、最初の出会いで悟空にやっつけられたわけですから面白くないわけです。
沙悟浄も加わった後、別の妖怪の策略で悟空が無実の人間を殺した!と三蔵法師に誤解される事件が起こります。悟空は人間に化けた妖怪を退治しただけなのですが、三蔵法師はそれを見破れません。
その時八戒は必死で抗弁する悟空をかばうどころか、悟空に不利な嘘をついて陥れる始末。とうとう悟空は誤解が解けずに破門されてしまいます。
しかし結局、破門された悟空を連れ戻したのも猪八戒でした。もちろんその時に八戒は悟空に平身低頭謝罪しています。
3番目に弟子となった沙悟浄との出会いも、最初は戦いでした。
一行が河を渡る手段を求めて往生していた時に襲い掛かってきた妖怪が沙悟浄だったのです。
孫悟空・猪八戒・沙悟浄も、それぞれ観音菩薩様から、取経のお供をするように言いつけられ、三蔵法師を待っていたはずなのに…おとなしく待っておらず悪さをしていたというのは、何ともはや…。
彼らが妖怪たるゆえんなのでしょうか。
三蔵法師一行の中に結婚経験者が!孫悟空とのいきさつ
唯一の結婚経験者は、猪八戒…しかもバツ2です。
弟子の中で一番欲望に忠実な八戒。食欲旺盛なだけでなくもちろん女性も大好きです。そんな彼の欠点は一行にとって敵の策謀や罠に引っかかりやすいというマイナスの貢献をしているわけですが、しかしそこがなんとも人間臭くて憎めない魅力として、多くの読者の心を惹きつけます。
結婚経験は三蔵法師の弟子になる前の話で、最初の妻とは死別、2番目の妻は孫悟空に退治された時のエピソードに登場している村の娘です。
村人の話では「末娘がさらわれた」となっていましたが、ホントの事情は少しニュアンスが違いました。
ある家の主人のところにやってきた立派な男(猪八戒)が「自分が身寄りがないから婿に入りたい」と申し出、それを受けた主人が末娘との結婚を許したのです。ところがその婿は次第に妖怪としての本性を現し始め、大食するわ不気味な事件を起こすわと評判を落とし、あげく娘も閉じ込めて誰にも会わせなくなってしまった…というのがホントのいきさつです。
悟空はその娘に化けて八戒をこらしめたことで事件解決めでたしめでたし、となった後、八戒は三蔵法師の弟子に迎え入れられ出家することとなります。出家したことで娘とも別れる(…というか、解放する?)こととなった…というのがホントの話です。
沙悟浄の正体は……ホントは河童じゃない?!
弟子である妖怪3人組といえば、猿・豚・河童だと思われています。石から生まれた石猿である孫悟空、イノシシの胎から生まれたにも関わらず、なぜか豚の猪八戒はホントの話ですが、沙悟浄が河童であるとは原作には明言されていません。
原作の描写を読むと、沙悟浄は河童であるとは言い難いのです。なにしろ彼は赤い目、赤い髪の持ち主です。頭頂部には髪はありませんが、特に皿があるわけではなさそうです。ちなみに赤い髪は三蔵法師の弟子になった時点で剃髪されています。
この正体不明(?)な沙悟浄がなぜか河童として定着したのは、おそらく最初の登場が河だったというインパクトから、河に住む妖怪=河童とイメージがつながったためと思われます。
何かと派手な孫悟空と、欲望丸出しの猪八戒に比べて、沙悟浄は登場の時以外にこれといって目立つエピソードはありません。ちょっと影がうすい感じがします。しかしそれは、彼が縁の下の力持ちとして、一行を影からサポートしているからだと考えられます。
■弟子3人と五行思想の相関関係
弟子3人の人間関係・力関係には東洋五行思想が見え隠れしています。
五行思想とは、ごくおおざっぱに説明すると木・火・土・金・水という五気で世界を解釈する考え方のことで、相互に関係しあい、影響を与え合い、ジャンケンのようにどれか1つが絶対的に優位にはなりません。
原作では弟子3人それぞれに
孫悟空→火・金
猪八戒→木・水
沙悟浄→土
のイメージが与えられています。
土である沙悟浄は、金と木である2人の仲裁者というポジションがそこから伺えます。沙悟浄というサポーターがしっかりと一行をフォローしているからこそ、一行が空中分解することなく、旅が続けられているのでしょう。
■寡黙な沙悟浄の本音
にぎやかな一行の中で寡黙な沙悟浄、実はこっそりと愚痴を日記にこぼしています。といっても、これは「西遊記」の中の話ではなく、日本人作家中島敦の文学作品の中での話です。
「悟浄出世」「悟浄嘆異」という作品がそれです。
「西遊記」の中であまり脚光をあびることのない沙悟浄がひとりで何を考え、孫悟空を、猪八戒を、師匠をどう見ていたのか…ご興味のある人は読んでみてください。西遊記本編と比べるとごく短い分量ですのですぐに読了できます。
この2作品は岩波文庫の「山月記・李陵」の中に、他の短編とともに納められていますので、「西遊記」を別の角度から楽しみたい人、沙悟浄ファンの人はぜひどうぞ。
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