フランス/フランス関連情報

パリ郊外に藤田嗣治のアトリエを訪ねて(4ページ目)

エコール・ド・パリの画壇でピカソやモジリアーニらと共にもてはやされ、日本人初のパリの画家として迎え入れられた藤田嗣治のアトリエを求めパリ郊外をさまよい、ようやくたどり着いた屋根裏部屋で見たものとは?

執筆者:赤木 滋生

最後に屋根裏部屋で見たものは…


門を入ればうっそうとした森が広がり、奥にある蔦の絡まる別棟でヘッドセットと音声ガイドを受け取る。
日本語による音声ガイドは部屋のあちこちに見られる番号に対応しており、ボタンを押せば詳しい説明が耳に入ってくる。しかし、説明など無くとも一歩屋内に入れば、そこはまさに嗣治ワールド。ドアの飾り、棚の置物、壁のオブジェなどすべて自分でこしらえたり、蚤の市で買い求められた、彼お気に入りの品ばかり。

室内の家具調度は藤田の晩年にあたる1960年代の最新型を藤田風にアレンジしてあるそうだ。中には日本製の電気炊飯器や日本人歌手のレコードも見受けられて、日本という国を捨てた、あるいは日本という国に捨てられたと思っていたとはいえ、日本文化だけはしっかりと、そして大事に取り込んでいた様子がしのばれる。

ボイラーによる集中暖房のおかげで無用になった暖炉は蓋され、自らの手になる版画で飾られている。屏風や間仕切りには手作りの彫金やシルクスクリーンとおぼしき版画でモダンな模様が刻まれている。なるほどこれでは部屋全体、家全体が彼の作品と言うのもうなずける。

半地下の1階は台所とダイニング。狭い階段を上がり、先ほどのぞき込んだ玄関のある2階にはリビングと寝室がある。南側に広く開けられた窓からは緑の木立と、はるか彼方に広がるフランスの野山が望まれる。快適なロケーションと遊び心あふれる住まいは、好きな制作に明け暮れ、隠居生活を心から楽しんだんだろうななどと想像してしまった私の思いは、しかし3階の屋根裏部屋に登り粉々に打ち砕かれてしまった。

屋根裏部屋は彼の制作の場。1、2階の部屋々を飾り立てた数々の絵、工芸、彫刻を生み出す秘密の道具や、透き通る肌、繊細な線をひねり出した画材の数々。はては奇癖奇行を演出する衣類を縫い上げるミシンなどまるでおもちゃ箱をひっくり返したような宝の山ではある。

ところが、どんな宝であろうとも太刀打ちできないような至宝が、階段の踊り場に対面する西の妻側の壁に仕掛けられていた。
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