男の不見識
会議室で声をひそめて |
「星野美穂から連絡が来ました。14日に食事をしましょうと横井女子から誘ってきたようです」
「うーん。どういうことだ」
「先輩。その日はホワイトデーですよ。それと、詩織が聞き込んできた話があります。横井女史なんですが、不倫してるみたいなんです」
「えっ? 誰と?」
「立川次長とです」
「ええ? たしかなのそれ?」
「目撃者がいるんです。受付の大野さんが偶然見たらしいんですけど、2人でラブホテルに入って行ったというんですよ」
「でも、入っていくところを見たってことは自分たちもそういう場所にいたってことだろ?」
「大野さんは独身だし、相手は全然違う会社の人でそれに近いうちに婚約するそうですから問題ないようです。でも、立川次長は奥さんも子どもさんもいるじゃないですか」
「間違いないのかね」
「大野さんは目がいいそうです。受付にいても遠くからお客様の顔をいち早く分かって準備できるスーパー受付とかで、2人があたりをはばかってホテルに入っていくところを目撃したそうなんです」
「それはマズイな。誰がどこで見ているか分からないものだよなあ」
「ですよねえ。僕たちも経験ありますし」
「それにしても立川かあ。なるほどねえ。男女のことなんて他人には分からないものだが」
「でも、社内恋愛でおまけに不倫なんて超マズイですよね」
「しかし、脇が甘いな。噂が広まったらどうするつもりだ。不見識な行動極まりないな」
「先輩、女史が最近冷たくなったって言ってましたよね。他に男が出来たからってことだったんですね」
「それにしても立川次長とは。オレとほぼ同期だけど」
「先輩とは全然違うタイプですよね。ちょっとお高いっていうか。正直いってあまり部下には好かれてないと思いますね。上に弱く下に強いっていうか」
「まあ、人はそれぞれだから。で、星野さんが横井さんから誘われたって?」
「そうなんです。大事な用があるからって。で、僕が思うに、先輩を別に呼び出すんじゃないでしょうか。理由は何とでも言えると思いますよ。仕事を装ってもいいわけだし。行かざるを得ない理由で呼び出すんじゃないでしょうか?」
「だが、オレが行かなければそれまでだろ? 14日は午後から取引先との打ち合わせが予定に入ってる。2軒回るから帰社予定はかなり遅いはずだ。それにしても分からないな。なんでオレと星野さんをそんなに会わせたがるんだ?」
「だから、2人で会っている場面を写真に撮るとかじゃないですか? 不倫だとか言って悪い噂を流そうとしているのかもしれませんよ」
「レストランか居酒屋かどこかで会っているのが不倫につながるというのはおかしいだろ。それにそんなことは事実じゃないとすぐに分かることだ。それより自分たちの足元が危ないだろうに」
「自分たちのことは知られてないと思ってるんでしょう。でも、先輩、14日は要警戒ですよ。呼び出しに注意です。僕たち2人も一応待機してますよ。もし呼び出されたら僕たちが代わりに行ってもいいし」
「うーん。そうだな。まあ、分かった。ちょっと考えておくよ」
「先輩、だまされたと思って、その場に行ってみるのも手じゃないですか? それを僕たちが陰から見てるっていのはどうです? もし女史がいて写真でも撮ってようものなら、それをまたこっちが撮るんです」
突然、ドアがノックされて、打ち合わせに使う予定だという社員が来たのを機に2人は会議室を出た。