防犯/防犯小説

ミセスの危機管理ナビ?悲鳴は冬空に消えた(2ページ目)

あわただしい年末がやってきた。主婦・麻季子も忙しい日々を送っていた。ある日、隣家からただごとならぬ悲鳴が聞こえて、麻季子は迷ったがすぐに隣家に向かった。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

不審者情報

「うちの下の子は高校生だけど女の子なものだから気になるのよねえ。一丁目は駅の行き帰りにどうしても通る場所だし。そういう情報はもっと詳しく知りたいんだけど」
「あら、インターネットで不審者情報を見ることができますよ。どなたかパソコンなさるなら、一度ご覧になってみたら」
「あら、そう? 不審者情報っていうのね? じゃ、上の息子に聞いてみるわ。ごめんなさい、引き止めちゃって」
「いいええ。それじゃ」

家に戻る
家に戻る
互いに会釈をして家に戻った。麻季子は「不審者情報」が警察署や自治体、教育委員会などでHPでも公開されているのはもちろん知っているし、サイトも見ることがある。だが、場所や時間、被害児童の年齢などは、その子が特定されてしまうおそれがあるということで、詳しく出すことは避けられていると聞いたこともある。自宅近辺のことなら詳しく知りたいものだが、なによりも被害児童の個人情報を守る必要もあるのだ。情報公開の難しさを痛感する。

麻季子は翔太が男の子だからといって、危険に男女の差はないと思っている。(そういえば、翔太の防犯ブザーの電池は切れてないかしら?)と考えたが、夏休みに一緒に電池交換したのを思い出した。ブザーを開けてみれば、電池交換の日付が付箋に書いて入れてあるはずだった。だが、もう一度、外出時にはすぐに使えるように必ず持つことを翔太に伝えようと思った。

冬空に悲鳴

麻季子は洗濯をして家中の掃除を済ますと、庭の物置に向かった。扉を開けて、まず換気をした。夏場は暑いので避けていたのだが、さすがに年末なので手を入れたい。捨てようか迷って、とりあえず入れておいたものをキッパリと捨てる覚悟だった。換気をしている間に周囲の落ち葉を庭用のホウキで掃くことにして、前かがみになったときだった。物置のある庭の西側の隣の家から、恐ろしい叫び声が聞こえたのだ。冬で空気も乾燥しているせいか、かなりクリアーに聞こえた。

女性の叫び声が!
女性の叫び声が!
「きゃあ」よりも「ぎゃあ~」と聞こえたと思った。ハッと息が止まって、体が動かなかった。首筋あたりの産毛がぞわっとなびいたようで、身の毛がよだつというのはこういうことだと実感した。全身の血液が膝から下に一気に集まった気がした。まさに、「血の気が引いた」のだった。耳を澄ますせいか、自分の心臓の音が聞こえてきそうだ。(なに? 何が起きたの?)と、後頭部がしびれるようだった。動悸も早い。確かに悲鳴だった。

高校生の一人息子は外国にバレエ留学をしているというから、日中は麻季子より少し年配の奥さん一人のはずだ。会えばあいさつを交わす、ごく当たり前の近所づきあいだった。悲鳴の後、麻季子はじっとしていたが、何も聞こえてこなかった。となると、かえって気になった。周囲を見回しても何も変わった様子はない。麻季子以外に誰か近所の人が今の悲鳴に気づいたという気配もない。悲鳴は冬の空に吸い込まれて消えてしまったようだった。

だが、先ごろの若い女性が殺された事件で、アパートの人たちが何人も悲鳴を聞いていたのにもかかわらず誰も通報しなかったとテレビのニュースでやっていたのを思い出した。もし、今の悲鳴が大変な事件の合図だとしたら、どうしたらいいのだろう? 悲鳴を聞いた人たちは、通報しなかったことを一生気に病むだろう。事件後、アパートの住人たちはみな引越したという。だが、麻季子の家は一戸建だ。簡単に引越すこともできない。いや、そんなことより、とにかく、女性の悲鳴が聞こえたのだ。無事を確認するしかないではないか!? 庭から呼びかけても聞こえないかもしれない。そう思った瞬間、麻季子は庭を走って玄関から飛び出していた。

隣の家に着くと玄関のインターホンを押した。返事がない。今度は、門扉越しに声をかけてみた。

「西田さ~ん、西田さ~ん」

門扉に手をかけてみると、鍵はかかっていなかった。そっと開けて中に入ると、木製の玄関ドアに駆け寄り、ドアを何度かノックした。

 
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