ある師走の朝
今朝も梅干入りのお茶を |
「今日も遅くなるよ。ああ~、ゆっくり休みたいよ」
「このところ毎晩遅いものね。あまり無理しないで」
「まあ、無理も出来るうちにするさ。じゃあ、行って来るよ」
「行ってらっしゃい」
玄関で春彦が出かけるのを見送って、息子の翔太(10歳)の朝食の支度を始めた。寒くなってきてからというもの、なかなか起きてこない翔太のベッドに近づくと、布団をはいだ。
「早く起きなさい。遅刻しちゃうでしょ。ほらあ、早く。パパはもう出かけちゃったわよ」
「もう、全然パパの顔見てないなぁ」
「あなたが早く起きれば会えるのよ」
「だって、寒いし、眠いんだもん」
「“だって”は言わない。さあ、早くして」
朝食は必ず一緒に |
朝食を終えて、あわただしく翔太が学校に向かうと、麻季子はゴミを出しに行った。数軒先のブロックの角にゴミ集積所があるが、そこに行くときにも必ず家の玄関の鍵をかけている。以前住んでいたところで、朝のゴミ出しで近所の奥さん同士がつい話し込んでしまい、一人の家が泥棒に入られた事件があったのだ。朝っぱらから泥棒に入られるなんて、誰も想像しないだろうが、実際に泥棒に入られた人が身近にいたので、元々鍵かけにはうるさかったが、いっそう気をつけるようになっていた。
「おはようございます。今朝も寒いですね」
「どうも~。ホント、よく晴れて風が冷たいですね」
斜め向かいの吉川さんの奥さんと一緒にゴミを出し、カラス避けのネットをかけ直してから、会釈をして家に戻ろうとすると、話しかけられた。
「ねえ、加瀬さん。聞きました?」
「はい? 何でしょう?」
「あの一丁目のほうのこと」
「あら。私、最近、忙しくしていたから」
「私もね、さっき聞いたのよ。あのね」
麻季子の住んでいるのは二丁目で一戸建住宅が多いのだが、一丁目はアパートやテラスハウスなどの共同住宅が多く、青空駐車場などもある。夜間は街灯がやや少ない印象だが、公立の小学校と中学校はその先にある。
「最近、不審者が出没しているんですって。なんかねえ、小学生の女の子が続けて怪しい男にヘンなことをされかかったとか」
「まあ、怖い」