まともな電話
「あ、今晩は」(お、わりとかわいい声だな)
「今晩は。ふふ。サラリーマンの方ですか?」
「そうだけど、よくわかるねー」
「あ、だってなんか声の感じが、サラリーマンぽかったから」
「まいったな。キミはお勤めしているの?」(こういう普通の会話がいいんだよな)
「うぅん。家事手伝い」
「へぇ。いいねぇ」(ということは未婚だな。お年頃ってか)
「まぁ、短大を出て花嫁修業中といえば聞こえはいいんですが」
「それで、こんな所に電話なんかしていていいの?」(ハタチちょっとか。なんか普通の子って感じだな。)
「うーん、なんだか今日はちょっと寂しくて…」
「そうか。じゃ、僕と一緒だね」(寂しいってのは、いいセリフだよな。なんか気を引くっていうか)
「それで、誰かと話したくなって」
「なるほど。僕でよければ相手になるけど」(この子なら話してもいいし)
「いいんですか?」
「もちろんいいよ。何を話そうか」(いいんですか、なんて遠慮がちだな。ちゃんとした子みたいだ)
「あのー、私、結婚している人がいいんですけど」
「え、なんで?」(ほう。そういう好みなのかね)
「だって、落ち着いていて信頼できそうだし、安心だから」
「独身じゃダメなの? それともファザコン?」
「うーん。だって、独身だとなんか危ない感じで。ファザコンもあるかも。いろいろな意味で結婚している人のほうがいいかなーって」
「そうか。じゃ、僕はちょうどいいね」
「あ、結婚してらっしゃるんですか」
「うん。子どもはまだいないけどね」(それでもこっちの年齢を聞かないってのがいいよなー)
「よかったー。あぁ、でもそれじゃ今日はお家に帰るんですよね…?」
「どうして? 帰っちゃマズイの?」(おいおい、そんな残念そうな声を出さないでよ)
「だって、私、今日、とっても寂しいの」
→誘いの会話