バッグの中の金を盗られて、それで済んでくれれば、と思ったが、男はまたもナイフでN代さんに指図をした。奥の寝室へ行けということらしい。絶望的な気持ちで奥へと行き、N代さんは男の言うがままになった。ほぼ暗闇の中で陵辱されたN代さんは、男が玄関から出て行ったあと、ようやく立ち上がり室内の明かりをつけた。

ダイニングテーブルの上に口を開けたバッグがある。たしかに売り上げも自分の金もなくなっていた。恐怖と喪失感に打ちのめされた体でぐったりとイスにもたれた。(どうしよう? 警察に電話をしたほうが…でも…)。お金は盗られた。しかし、室内が荒らされたわけでもない。軍手をしていたから証拠は残っていないはずだ。いや、強姦されたのだから証拠はないわけではない。

しかし、警察を呼んで、いろいろと聴かれることを考えると面倒になった。隣近所の手前もある。(どうしよう…)。風呂に入り、バスタブにお湯をたっぷりと入れて口元まで体を沈めた。(しかたがない、またがんばって稼げばいいわ)。

結局、N代さんは警察に届け出ることをしなかった。あるとき、店にマスコミ関係の人が来て話題になった。「ママねえ、最近、水商売の女性がけっこうやられているらしいよ。ほら、金を持っているでしょ。酒も飲んでいるしさ、帰りが真夜中だから人目がないし。金を盗られて強姦されちゃあ割に合わないよね。でも、水商売の人って、届け出ないらしいんだ。面倒だからかね」

「ママは大丈夫?」と聞かれて、「私はしっかりしているから大丈夫よ」と答えると「ほら、そういう人がアブナイらしいよ。気をつけてよ」と言われた。「そうねえ、スタンガンとか催涙スプレーとか持っていたほうがいいかしらね」「それとも、ママ、空手とか合気道とか習った方がいいんじゃないの」「そうね、えいやっとやっつけたりね」内心、苦笑いの気分だった。

あとから、あれはサバイバルナイフと呼ばれるものらしいとわかったが、(あんなものを目の前にして何もできるわけがない)とN代さんは思った。誰にも言わなければ、あのことはなかったと同じ。そう思うようにしたN代さんだが、奪われたお金以上に、自分は何かを失った…と心の中に重く残るものの正体はいまだにわからないままであった。


待ち伏せに警戒せよ!

水商売の人に限らず、帰宅時間が遅い女性やストーキングされている女性は「待ち伏せ」されることを注意しなくてはなりません。N代さんのように水商売の女性だと、まずそれなりの額のお金を持っていることが予想されてしまいます。とくにN代さんは売り上げを持ち帰るという点まで知られていたのでしょう。とすると、週末や給料日後の月末となれば普段より売り上げが多いであろうことは予測されます。狙う側からすれば効率のよい日つまり収穫の多い日を狙うわけですから、そのころは特に要注意です。


エレベーターに気をつけて!