みなさんは『ライトスタッフ』という映画、ご覧になりました? トム・ウルフのベストセラー小説をもとに宇宙開発の秘話を壮大なスケールで描いた作品です。
大空には悪魔が住み、その悪魔に挑む者は死ぬと言われていた──。
映画はそんなナレーションで始まります。1950年代に始まった米ソ冷戦構造のさなか、宇宙開発で一歩リードしていたソ連に対抗すべく、アメリカでマーキュリー計画がスタート。その宇宙飛行士に7人のパイロットが選ばれますが、彼らに背を向けるように、自らの記録を超えるべくひとり孤独な挑戦を繰り返していたのがサム・シェパード演じるチャック・イエーガーというテストパイロットでした。冒頭の「大空に住む悪魔」とは“音の壁”と呼ばれるマッハ1のことで、チャック・イエーガーこそ、人類未到のハードルを最初に乗り越えた伝説の人物なのです。
国家に殉じて英雄となるべく訓練を続ける飛行士たちと、あくまで一匹狼として生きる男──『ライトスタッフ』はその両者を対比的に描いた1983年の作品で、同年のアカデミー賞では編集、作曲、音響など4部門で最優秀賞に輝きました。公開当時は決して大ヒットとはいかなかったようですが、テストパイロットの存在を世に知らしめた意味で、これは隠れた名作といえるでしょう。
試作機を単に操縦するのではなく、テストパイロットは開発されたマシンの性能や機能の“極限”を見極める役割も担っています。メーカー技術者のはじき出した数値が正しいかどうかを確認するため、機体をわざとスピンさせてきりもみ状態からの脱出を試みる。失速からの回復性能をテストするため、限界まで速度を落とす。そうした過酷な条件下での飛行を納得できるまで何度も何度も繰り返す、まさに命がけの職業なのです。