定年退職後、多くの人が感じるのは「自由な時間を得られた安心」です。しかしその一方で、膨大な時間をどう過ごすべきか、戸惑いを感じる人もいるでしょう。
現役時代は、会社に行けば仕事があり、同僚とのやりとりがあり、何より確実な収入が得られました。時には気疲れする場面もあったはずですが、それらは日々の暮らしにリズムと社会とのつながりを与えてくれる貴重な存在でもあったのです。
退職後は、それらが失われます。「時間はたっぷりあるのに、使い道が分からない……」。そんなときこそ、将来への不安から陥りがちな「お金の落とし穴」に注意が必要です。

「やることがない……」ときに避けたい、守り過ぎの節約
年金生活が始まると、まずは支出を減らそうと考えるのは自然な流れです。しかし、ここで「交際費」や「外出費」を真っ先に削ってしまうと、人との関わりや外出の機会が極端に減っていきます。
「数百円のカフェ代がもったいない」「会食の誘いを断ってばかり」という選択が続けば、社会とのつながりは徐々に細くなっていくでしょう。会社という後ろ盾がなくなった今、自分から動かなければ接点は生まれません。そして、その「動く」というアクションには、交通費やコーヒー代といった「わずかな出費」がどうしても伴うのです。
「新しいことをマスター」して自分を磨こう!
「ただ誰かと遊ぶ」だけでは、時に、気疲れしてしまう人間関係や、目的のない集まりに物足りなさを感じることもあるでしょう。そこでおすすめしたいのが、「新しいことをマスターする」ためのお金の使い方です。単なる「お出かけ」で終わらせず、「学び」を目的にお金を使うことには、多くのメリットがあります。
●メリット1:目標が明確になる
「これができるようになりたい」という目的が、毎日の生活に心地よいハリを与えてくれます。
●メリット2:自然な会話が生まれる
習い事の場には共通の目的を持つ人が集まるため、無理に話題を探さなくても自然な交流が生まれます。
●メリット3:「自分らしさ」を再発見できる
学びの最大の魅力は、自分のペースでいくらでもアレンジできる点にあります。
ここからは一例として、三十一音に心を託す「短歌」を始めたとしましょう。
【広げる】
短歌だけではなく、五・七・五の「俳句」に挑戦してみたり、自分の歌を美しく書き残すために「書道」を習い始めたりすれば、日本の伝統文化へと興味の幅がどんどん広がります。
【深める】
歌会に参加して仲間から講評をもらい、一首をより鋭く磨き上げる。あるいは、古典から現代までの歌人の歴史を紐解き、表現の深淵に触れるといった探求も可能です。こうした「広げる・深める」の選択は、個々の感性や個性が色濃く反映されます。それにより、世界に1つだけの「自分らしい楽しみ」ができあがります。
●メリット4:デジタルへの関心につながる
詠んだ歌をスマホで記録したり、SNSで発信して全国の歌友と交流したりするようになれば、現代の便利なツールを使いこなす楽しみも広がります。
「面白くない付き合い」に散財する必要はありません。しかし、自分の世界を広げるための少額の出費は、孤独を遠ざけ、時間の使い方を劇的に豊かにしてくれます。老後の資金はただ守るだけでなく、自分をワクワクさせる活動探しにも上手に活用していきましょう。
お金は「自分を動かすエネルギー」として使う
老後の生活に不安があると、できるだけお金を減らさないように……と考えてしまうのは自然なことです。ただ、老後を本当の意味で豊かにするのは、自分らしく過ごせる時間がどれだけあるか、という点ではないでしょうか。
例えば、「習い事の月謝」や「ちょっと出掛けるための交通費」は、ただの出費ではありません。社会とのつながりを保ち、自分を元気にするための「心の健康を保つための維持費」として考えることもできます。
ほんの数百円でも、新しいことに触れる経験は、単調になりがちな毎日をちょっとだけ変えてくれる力になります。お金をただ使わないのではなく、「心地よく動くため」に上手に使ってみる。そんな視点を持つことが、これからの毎日を少し明るく過ごすきっかけとなるでしょう。







