メンタルヘルス

自分が誰か分からなくなる「解離性遁走」とは……症状・原因・記憶を取り戻すリスクも

【精神科医が解説】突然の記憶喪失や自分が誰か分からなくなる「解離性遁走」は、精神医学的にもまれな病態です。なぜ解離や記憶喪失が起こるのか、記憶を取り戻すことのリスクと注意点について、分かりやすく解説します。

中嶋 泰憲

中嶋 泰憲

メンタルヘルス ガイド

精神科医

慶応大学医学部卒業後、カリフォルニア大学バークレー校などに留学。留学先でのカルチャーショックから、自身も精神的な辛さを感じたことを機に、現代人のメンタルヘルスの重要性を悟りました。精神病院の現場から、みなさまの毎日の心の健康管理にお役に立てるよう、メンタルヘルスに関する情報発信を行っていきます。

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記憶喪失

自分が誰か思い出せない……「解離性遁走」の可能性も


見知らぬ場所でふと我に返ると、記憶を完全になくしている。なぜ自分がここにいるのか、自分が誰なのかも分からない……まるで映画の冒頭のような出来事ですが、精神医学的に現実に起こりうる現象です。

ごく簡単に言えば、脳内の記憶に関する領域に問題が起きている状態で、精神医学的に「解離性遁走(かいりせいとんそう)」と診断することがあります。今回は「解離」という語が示す記憶喪失のメカニズムを解説します。

「解離」とは……日常的に起こる「ぼんやりした状態」も解離の一種

実は「解離」という現象自体は、誰にでも起こります。例えば授業中や仕事中にぼんやりしていて、背中を叩かれてハッと我に返ったことはないでしょうか? ぼんやりしていたとき、周りが何の話をしていたか、自分が何を考えていたのか、何も思い出せないかもしれません。これは軽度の解離です。

これよりも少し深刻な例として、ショックな出来事が起きた直後の茫然自失とした状態が挙げられます。例えば、大切な人から不意に別れを告げられたような場合です。強いショックを受けて家まで帰りついたものの、別れを告げられてから帰宅するまでの記憶がはっきりしないといったこともあるかもしれません。これも一時的な解離の状態です。このように、「解離」は健康な人にも起こる現象です。

自分が誰なのかも分からなくなる「解離性遁走」とは

そして冒頭の例のように、自宅から遠く離れた場所でふと我に返り、自分が誰なのかも分からないという、強い解離の状態も実際に起こりえます。それまでの自分の記憶を失い、別の人格が表れている可能性もあり、この場合は「解離性遁走」と診断されることがあります。

ただし、解離性遁走は非常にまれな病態です。筆者自身も精神科医として長く診療にあたっていますが、これまで実際の患者さんの診察経験はありません。

解離性遁走が起こる原因は? 考えられる背景と記憶を取り戻すリスク・注意点

解離性遁走が起こる原因としては、まずは解決困難な非常につらい状況があったことが考えられます。現実の出来事から自身の心を守る目的で、心が自ら解離を起こすというものです。

もしも記憶を失ってしまったら、誰もが早く記憶を取り戻したいと考えるでしょう。しかし、注意も必要です。失われた記憶を取り戻すことが回復のゴールと思われがちですが、記憶を取り戻すことで、再び非常につらい状態に心を直面させてしまうかもしれないからです。抑うつ状態や自殺リスクが高まる可能性もあるため、十分な注意と専門的なケアを受けることが大切と考えられています。

「記憶喪失」という現象はドラマや映画などの作品内でよく使われるため、実際に起こると不思議で不可解な出来事に感じるかもしれません。しかし、精神医学的にも、科学で説明可能な現象です。正しく理解して、当事者や周囲の人をサポートできる体制を作っていきましょう。
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