5月の沖縄地方の梅雨入りを皮切りに、日本各地は徐々に梅雨入りしていきます。天気の変化だけでなく、気温、気圧、湿度の変動も大きくなる時期です。筆者も、薬局で着る白衣を長袖にするか半袖にするか迷ったり、除湿器をフル稼働させたりする日が多くなります。
体はこのような環境変化に順応するため、普段以上の負担がかかることになります。近年、気候の変化によって引き起こされる体調不良を「気象病(きしょうびょう)」と呼ぶことも増えてきました。梅雨の体調不良は、まさに代表的な気象病と言えます。
梅雨時の気象病に注意! 漢方の考え方では「水毒」「水滞」の状態
漢方の視点から梅雨を捉えると、長雨による湿度が心身に悪影響を及ぼすと考えます。湿度が高止まりすると体内の水分の流れもそれ影響されて悪くなり、停滞してしまうのです。このような状態を漢方では水毒(すいどく)や水滞(すいたい)と呼びます。水毒に陥ってしまうと、めまい、頭痛、頭重感、だるさ、むくみ、食欲不振、下痢や軟便などが起こりやすくなります。水毒を中心に、梅雨に起こりやすい体調不良を改善する漢方薬について、以下で解説してきます。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)は、フラフラめまいや頭痛に有効
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)はめまいや頭痛を改善する漢方薬として有名です。天気が崩れる前や台風が接近してきたときに起こる、フラフラするようなめまいや鈍い頭痛などに有効です。ほかにも苓桂朮甘湯には精神状態を安定化する作用があります。このはたらきを応用して、水毒体質の方のパニック発作で起こるような突然の動悸、ふらつき、不安感にも応用されます。
沢瀉湯(たくしゃとう)は、グルグルする回転性めまいを改善
沢瀉湯(たくしゃとう)は水分代謝を整える沢瀉(たくしゃ)と白朮(びゃくじゅつ)という2つの生薬から構成される非常にシンプルな漢方薬です。漢方薬は構成生薬数が少ないほど、鋭く効果を発揮する傾向があります。したがって沢瀉湯も、症状に合うと、素早く効果が出ます。沢瀉湯が得意とするのは天井が回転するようなグルグルタイプの激しいめまいです。このような特徴からメニエール病にもしばしば用いられます。
五苓散(ごれいさん)は、水毒改善の万能薬
上記の苓桂朮甘湯や沢瀉湯は主に頭部における水毒に有効な漢方薬でした。この五苓散(ごれいさん)は全身の水毒に有効な万能タイプと言えます。めまいや頭痛にくわえて下痢や軟便、むくみ、軽度の食欲不振にも有効です。梅雨時になると何となく体調が悪くなるような方、強く目立つ症状はないけれど漠然と不調が続く方に適した漢方薬です。
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)は、胃腸虚弱の方に最適
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)はフラフラタイプのめまいなどにくわえて、体質的に消化器系が弱い方に合った漢方薬です。梅雨時になるとめまいや頭痛のほかに食欲低下、吐き気、下痢や軟便、疲労感が顕著になるような方に適しています。これまでに登場した3つの漢方薬と比較して体質改善効果の意味合いが強い漢方薬なので、長く服用することで気象病に負けない身体づくりも期待できます。
逍遙散(しょうようさん)は、雨の日の欝々とした不調に
ここまでに登場した漢方薬はどれも水毒を改善する効果が高いものでした。この逍遙散(しょうようさん)にも水毒改善効果はありますが、中心となるのは気の巡りを改善する作用です。梅雨時は薄暗い日が多くなり、雨で外出の機会も減りがちです。結果的にめまいなどの身体症状にくわえて気分の沈み、不安感、不眠といった精神症状も現れやすくなります。逍遙散はそのようなメンタルトラブルを改善する代表的な漢方薬です。生理不順や生理痛を改善する作用もあるので、しばしば女性に用いられますが男性が服用しても問題はありません。
梅雨の不調には、摂取する水分量に気を付けるのもポイント
ここまで梅雨の漢方薬を挙げてきましたが、生活の見直しも重要です。特に気を付けたいのは摂取する水分量です。成人は1日におおよそ2L(リットル)の水分を必要とします。注意したいのは、水分は食事(食物)にもしっかり含まれている点です。基本的に1日3食を摂れていれば、そこから約1Lの水分は摂れます。したがって、飲料として必要な水分量は1L前後です。
私の営んでいる漢方薬局にはむくみ、下痢、頻尿にお困りの方がしばしばいらっしゃいます。そしてお話を伺うと健康のために無理やり2~3Lの水を飲んでいるケースが非常に多いのです。
摂取する水分量が多過ぎるとその代謝が停滞し、水毒に陥りやすくなってしまいます。高齢者を除けば、摂る水分量は喉の渇きの有無や便通の状態などの体調と照らし合わせて判断すればよいでしょう。睡眠不足も体力を削ぎ、環境変化によるストレスを跳ね返せなくなってしまいますので要注意です。
もし梅雨に体調を崩しやすい方はまず生活習慣を見直していただき、それでも上向かない場合はぜひ漢方薬の服用を検討してみてください。