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東京の孤児院の現状を知っていますか? 児童養護施設の“今”

孤児院とはどんな場所なのでしょうか。東京の孤児院の現状は?少子化にも関わらず虐待や育児放棄が急増しています。そのため孤児院に入所する子どもが増え、全国の施設が満員の状態です。大田区の施設を取材してきました。

筑波 君枝

執筆者:筑波 君枝

ボランティアガイド

東京の孤児院の現状は?

以前の記事「あまった食品で、フードドライブしよう!」でご紹介したカーブスが実施するフードドライブで集まった食品は、ホームレスの支援団体や、パートナーからのDVを受けた女性たちの駆け込み寺である民間のシェルター、高齢者介護施設、児童養護施設などに寄付されます。寄付を受ける団体の1つである聖フランシスコ子供寮を取材させていただきました。記事で紹介した大森北口店で集まった食品は、こちらに届けられる予定です。児童養護施設とはどんな施設なのかをご紹介します。
   

心に深い傷を負った子どもたちに孤児院でも家庭の温かさを

入り口
聖フランシスコ子供寮はカトリック精神を元に子どもたちの養育し、自立を支援しています。
児童養護施設とはどんな施設なのでしょうか? ここは、保護者がいないあるいは何らかの理由で養育できない2歳から18歳までの子どもたちを養育し、自立支援を目的とする施設です。2歳未満の子どもたちは乳児院に預けられます。

親を失った子どもが身を寄せる孤児院のイメージが強いかもしれません。しかし、むしろ、現代は、身よりのない子は少数派で、保護者がなんらかの理由で育てられない、両親が育児を放棄した、そしてひどい虐待を受けてきたことなどで保護されたといった子どもたちが圧倒的に多くなっています。

そのため、愛情に飢え、心に大きな傷を負っています。そういった子どもたちが家族の温かさを感じ、人を信頼できる気持ちを育むことができるように、一般の家庭に代わる生活の場としての環境を作り、養育しています。
 

一般の家庭と同じ生活の場を

外観
施設の外観は、一見普通の集合住宅と変わりません
東京、大田区の聖フランシスコ子供寮には50名の子どもたちが生活しています。マンションタイプの寮で、1部屋に5人の子どもたちが職員の先生3人と暮らすのが基本です。年齢の高い中学生や高校生には個室が用意されることもあります。

部屋には、玄関があり、洗面所やお風呂場があり、台所があり、リビングがありと、通常のマンションの間取りとさほど変わりません。3畳程度でしたが、子どもたち1人ひとりの個室もありました。

食事は、各部屋で栄養士が決めた献立を先生たちが手作りし、一緒に食卓を囲みます。入浴も洗濯もすべて個別の部屋で行います。南向きにベランダがあるため日当たりも良く、芝生の庭が広がり、ここが施設といわれる場所であることを忘れてしまいそうでした。

日々の生活にも、細かい規則や、守らなければならない集団生活のルールもありません。子どもたちが社会に出て必要な常識的なことはもちろん伝えていきますが、必要以上の規則で縛ったりはしないそうです。

もちろん、こちらは全国から視察が来るほどの先進的な施設なので、児童養護施設の中でもかなり恵まれた環境が整えられているところでしょう。でも、中の様子は違ってもどこの施設も、家庭に代わる生活の場として、子どもたちが安心して過ごせるような環境作りに重点が置かれています。
 

どの年齢の子もそれぞれ大変

プレート
各部屋の玄関は思い思いに飾られています。この部屋には手作りのプレートがさりげなくかけられていました。
入寮した子どもたちの多くは、そのまま高校を卒業する18歳まで過ごします。両親が引き取りに来る家庭はそう多くありません。

卒寮後は、自活することになりますが、今の時代、高校卒業の学歴だけではなかなか良い仕事には就けません。たった1人で生きていかなければならない自分を守るためには、教育や資格が必要です。

だからこそ「できるだけ高い教育を受けさせたい」と、常日頃から「一生懸命に勉強をしなさい」と子どもたちに声をかけているのだそう。その甲斐があって、ほとんどの子は奨学金や多くの人の支援を受けながら、大学や専門学校に進んでいきます。

「だからどの年齢の子が一番大変というのもないんです。幼児には幼児の、小学生には小学生の、中学生には中学生の、高校生には高校生の、それぞれの年代によって大変さが違うだけで。だって、子育てって子どもが自立するまでは、ずっと大変でしょう?それと一緒なんですよ」

聖フランシスコ子供寮施設長の釘宮礼子さんは、そうやさしく話してくれました。
 

片づけられない子どもの心の風景

キッチン
キッチンとダイニング。先生が食事を作り、一緒に食卓を囲みます。全員が集える大食堂もありますが、大きな行事のとき以外は使われていません。
施設で働く先生方が最も心血を注いでいるのは、心に深い痛手を負った子どもたちの精神的なケアをしていくことだといいます。

施設の見学中に、ある女の子の部屋をのぞかせてもらったときのことです。洋服や本などの物が、床が見えないほどに散乱したすさまじい部屋でした。思わず「すごいですね」と口走ってしまったほどです。

「散らかしておかないと、落ち着かないんですって。物に取り囲まれていることで安心感を得ているのでしょうね。部屋はその人の心を表しているといいますから、散乱している物でよろいのように自分を囲み、守っているのでしょう」(釘宮さん)

そのすさまじい散らかり方に、ここで育てられている子どもたちがどれほど苛酷な体験を重ねてきたかを、改めて見せつけられたような思いがして、胸の奥が痛みました。

そして、釘宮さんは、こう続けました。

「それをきちんと片付けができるようにしてあげるのが、私たちの仕事。そうねぇ、3年くらいはかかるかしら……」

セラピストによる心のケアが行われていることはもちろん、清潔で、普通の家庭と変わりない環境で育てられながら、親と離れた寂しさや、虐待をうけた傷を少しずつ癒していくのでしょう。日常の先生たちとの何気ない関わりを重ねていくことで、安心感を得て、人が信頼できる存在であることを学んでもいくのでしょう。その作業が、ここで働く先生たちの最も重要な仕事です。
 

少子化なのに、全国の施設は満員状態

リビング
南向きのリビングからは、子供寮の広い芝生の庭が見渡せ、ここが環境の整った恵まれた施設であることを実感します。
少子化で子どもの数がどんどん少なくなっている反面、今、全国の児童養護施設は、満員で空き待ちの状態が続いています。虐待や育児放棄が増加しているためです。法改正によって、虐待を受けているおそれがある子どもの安全確認、身柄確保のため、裁判所の許可があれば、児童相談所が強制的に立ち入ることができるようになったことも背景にあります。

特に、年末年始は緊急に預けられる子どもたちが急増する時期なのだそう。債務に追われている両親が子どもの世話にまで手が回らなかったり、子どもを置いて夜逃げをしてしまったり……。大人を取り巻く厳しい社会状況が、最も弱い子どもたちを痛めつけているのですね。新しい年を不安な気持ちで迎えなければならない子どもの心を思うと言葉もありません。
 

子どもは親を選べない!

リビング2
リビングには自分たちの写真が飾ってありました。子供寮の子どもたちは、仲良しで、学校で不登校になったお子さんの面倒を見るなど、皆、とても優しいのだそうです。
子どもは親を選ぶことはできません。家族の絆が壊れ、家庭が崩れてしまったときの最大の被害者は子どもたちです。恵まれたところにいるとなかなか見えてきませんが、こういった子どもたちが増え続けていることも、私たちが知っておかなければいけない日本の現実なのだと思います。

今回、ガイドはカーブスジャパンのフードドライブのご縁で取材をさせていただきましたが、こちらの寮では、個人でのボランティアは、現在は受け付けていません。一部、学習ボランティアグループを通じた学習ボランティアを受け入れているそうです。

ボランティアの受け入れは、施設によって異なりますので、興味がある方は、まずは施設に直接か、お近くのボランティアセンターに問いあわせてみてください。

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